2021 Fiscal Year Research-status Report
Is the plant ash glass found in East Asia from West Asia? -Basic research for elucidation of glass trade route-
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20K01116
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
田村 朋美 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (10570129)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 植物灰ガラス / Sr同位体比 / 中央アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の弥生時代~古墳時代の遺跡からは多くのガラス製品が出土する。これらの多くは輸入品であり、生産地や交易ルートの解明が大きな課題となっている。本研究では、従来の蛍光X線分析に加えて、同位体比分析および超微量成分分析を適用することで、東アジアで流通した植物灰ガラスの具体的な生産地を明らかにし、ユーラシア大陸おけるガラス交易に大きな変化をもたらした要因の解明を目指すものである。 本年度は、カザフスタン、モンゴル、および日本で出土したガラス製品について、MC-ICP-MSを用いて87Sr/86Srを測定した。カザフスタン出土品は、化学組成から内陸の植物灰を原料に用いた植物灰ガラスであることが判明していた。さらに、MgO>K2Oであることから、西アジア産の可能性が考えられていたが、これまでに知られる西アジアのガラスは、87Sr/86Srが0.7069~0.7093程度であるのに対し、カザフスタン出土品は0.7138と高く、西アジア産の可能性は低いことが分かった。 一方、モンゴル出土のガラスは、紀元前1世紀~紀元後1世紀の匈奴墓(Zamiin Utug遺跡)から出土した重層ガラス玉などで、化学組成から内陸の植物灰を原料に用いた植物灰ガラスであることが判明していた。これらは、MgO<K2Oであることから、化学組成の面では中央アジア産の可能性が想定されるガラス玉であった。そして、これらのSr同位体比は0.7139~0.7146という高い同位体比を示したことから、想定通り西アジア産の可能性は低く、中央アジアまたはインド・パキスタン地方に起源がある可能性が示唆された。 日本出土の植物灰ガラスは、福岡県の隈山2号墳出土の緑色ガラス玉である。これらは、化学組成の特徴がMgO>K2Oであり、かつ、87Sr/86Srが0.7088~0.7092であったため、西アジア産である可能性が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本列島出土品についての材質調査および同位体比分析は、概ね当初の予定通り順調に進捗している。さらに計画当初は予定していなかった北海道でも植物灰ガラス製の玉類が出土していることが判明したため、新たなデータを取得することができた。また、事前に収集していたモンゴル、カザフスタンで出土したガラス製品についての材質および同位体比分析は順調に進んでいる。 一方で、植物灰ガラスの東アジアでの流通状況から交易ルートを検討するという目的のため、韓国およびウズベキスタンで予定していた可搬型の蛍光X線分析装置を現地へ持ち込んでの分析調査がCovid-19感染拡大のため、本年度も実施で来ていない。カザフスタンについては、一部の資料を郵送により入手することができたため、研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年度に引き続き、日本および周辺諸国で出土したガラス製遺物の化学組成とSr・Pb・Ndの同位体比の分析を進める。さらに、これまでに取得した化学組成と同位体比分析の結果について、西アジア出土の植物灰ガラスと比較検討し、西アジア産の可能性を検証する。西アジア出土の植物灰ガラスについては、生産遺跡の存在するシリアやイラクなどから出土した資料を中心に同位体比分析および超微量元素分析に関する論文がヨーロッパの研究者によって近年多数発表されており、文献値との比較を中心におこなう。 さらに、日本出土の植物灰ガラスについては、異なる起源のガラスが混合された可能性を検証する。日本列島出土の植物灰ガラスには、化学組成が地中海世界のナトロンガラスと西アジアの典型的な植物灰ガラスの中間的な値を示すものが含まれる。昨年度までに地中海起源のナトロンガラスについてもSr同位体比分析を実施しており、これらのナトロンガラスのSr同位体比と植物灰ガラスのSr同位体比を比較することで、混合の可能性を検証する。 状況によるが、可能であれば可搬型の蛍光X線分析装置を韓国に持ち込み、韓国出土のガラス小玉の化学組成の分析を実施する(国立慶州博物館での調査を予定)。日本列島で出土する植物灰ガラスと形式学的特徴の類似するガラス小玉が同時期の朝鮮半島でも新羅地域を中心に流通が確認される(皇南大塚98号南墳など)。共伴するガラス容器は分析が行われ、植物灰ガラスであることが報告されているが、小玉についてはほとんど分析が行われていないため、化学組成の分析によって日本列島出土品と同種のガラスであるかどうかを確認する。
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Causes of Carryover |
学会参加費および学会出張費として計上していたものが、一部延期やWEB開催になったため、次年度使用額が生じた。 翌年度に延期となった研究会に参加する計画である。
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Research Products
(3 results)