2022 Fiscal Year Research-status Report
Review of the historical change of a name of biological taxon for establishing a cross-sectoral rules of nomenclature of the standard Japanese name
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20K01131
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Research Institution | Kanagawa Prefectural Museum of Natural History |
Principal Investigator |
瀬能 宏 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 主任学芸員 (80202141)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 標準和名 / 生物学史 / 教育学史 / 魚類分類学 / 本草学 / 洋学 / 明治時代 / 江戸時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1)生物学史的観点からみた標準和名の概念成立過程の解明、2)教育学史的観点からみた標準和名の普及実態の解明、3)標準和名の命名指針制定機運の醸成である。4年計画の3年目となる2022年度は、目的1と目的2を並行して進めると同時に、目的3についても取り組みを行った。 目的1については飛鳥時代や奈良時代にまで遡り文献収集と生物名称に関する情報抽出を進めた。その結果、学問的にオーソライズされた名称の出発点は平安時代に作られた『本草和名』や『和名類聚抄』まで遡ることができた。それ以前の名称については人々の生活の中で自然発生的に生まれた言わば古来の地方名であると理解する必要があることが明確になった。また、名物学や本草学上の和名は正名としての意味を持ち、標準和名の原型として機能したが、多数の生物種をカバーするにはまったく不十分であった。この状況を補完したのは江戸末期に作られた博物学的な著作物であり、多くの「新たな和名」が創造されたことが明らかとなってきた。ただし、これらの著作物の大半は未完の稿本であり、その名称が評価されたのは明治中期になってからのことであった。 目的2については明治初期に編纂された植物学や動物学の教科書が新しい和名創出の場となったが、それらは主に上位分類群の名称に集約されていた。蘭学・洋学の導入により西洋の分類学の理解が進み、分類階級の概念が浸透したことと関連し、学名の翻訳値として新たな和名が創造されたことが判明した。 目的3についてはこれまでの研究の成果を講演の場で様々な分野の研究者を相手に開示した。また、標準和名問題を分野横断的に議論するためのワーキンググループの設置にも取り組んだ。このワーキンググループの設置については2023年度に実現する見込みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.文献収集:デジタルアーカイブを活用し、探索範囲を飛鳥時代まで拡大した。 2.収集文献の内容:江戸期以前においては純粋な本草学以外に、食物本草や名物学に関する文献の収集にも努めた。また、分野によっては江戸末期に作製された博物図や明治初期に編纂された種目録に掲載された名称も後の標準和名選定の候補となったことが見えてきたため、それらの収集にも努めた。 3.学会発表等:第22回日本分類学会連合公開シンポジウム(2023年1月7日、オンライン)と相模湾海洋生物研究会第2回オンライン研究発表会(2023年3月18日、オンライン)において「標準和名とは何か?―その歴史と概念の成立」というテーマで発表を行った。これにより魚類以外の幅広い分野の研究者に標準和名が抱える問題について普及啓発できた。 4.標準和名問題検討ワーキンググループ:分類学関連の学協会の共同体に対して標準和名問題検討ワーキンググループの設置提案を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに標準和名の概念成立に関する史的変遷の概要をほぼ把握できたが、個々の名称の変遷については不明確な部分が多く、データベース化には多くの課題が残されている。また、標準和名の概念という点では学協会間や学問分野間、あるいは研究者間での認識の差が予想以上に大きいことも見えてきた。例えば標準和名の定義という最も基本的な概念についても研究者間で認識の差が大きく、命名対象がタクソンに対する名称であることについてコンセンサスは得られているとは言い難い。このような現状を網羅的に把握するためには、分野横断的な標準和名問題検討ワーキンググループでの活動が有効であるため、引き続き設置の実現に注力する。なお、今年度は研究計画の最終年度に当たるため、研究成果の出版に向けた準備を進める。
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Causes of Carryover |
通常使用していたが、消耗品費程度が若干余ったので次年度に繰り越した。
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Research Products
(3 results)