2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K01386
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
川村 力 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (70401015)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ガバナンス / 金融 / 歴史学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画の2年目となる本年度は、一方で(a)現代の金融および市場と組織の関係に対してその取り結ぶ関係について現代の問題状況把握の更新を継続しつつ、他方で(b)研究の本丸をなす歴史社会において金融がその社会と取り結ぶ関係を複層的に研究する作業を、行なった。 具体的には、(a)については、第一に、2010年代日本で象徴的な課題となったモニタリング・モデルというトポスが、アメリカで1970年代に与えられた理論枠組みが1980年代の買収ブームを背景に1990年代に定着した時系列とその背景にある構造の継時的な変化に着目し、ファイナンス理論、支配株式の理論的位置づけ、市場と社会に跨るリスク認識の複雑化等の要素に着目して、それが指名・報酬と監督との間に異なる理論的背景を持った歴史的複合体であること、このことが日本では混乱されて論じられる状況を分析した。第二に、同時期に長期間定着した金融緩和について、債権市場、市中銀行、中央銀行、従って財政を含めたMMT理論等問題群の検討を開始し、財政を含んだ経済社会の多層間の分節関係のあり方について、歴史学作業との突き合わせ作業を進めた。 (b)については、第一に、前年度より行ってきた、古代地中海世界および西欧社会の重要な参照地点となった紀元前5世紀初めの構造を分析した作業をまとめ、公表した(「デモクラシーとイソノミー」)。第二に、以上のギリシャの展開は貨幣の登場さらには銀行取引の次元を伴うところ、まずはより成熟した研究のあるローマの金融社会について、J. Andreauの研究を中心としG. CamodecaやR. Bogaertらの研究、碑文等資料の分析を行なった。 なお、以上の研究を進める過程で、現代の信用の基礎となる相続について、会社法の観点から分析し、「共有株式の権利行使者の指定方法」を公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由としては、大きく以下の2点を挙げることができる。 第一に、本研究の最大の研究領域である古代社会について、その膨大な研究領野に対してどのように研究スケジュールの骨格を与えていくかには手探りの部分が残らざるを得なかったが、本年度は、最初の出発点として古典期の入り口にあるアルカイック期について一応の公表作業を行うことができた。その一方で、時間軸としては迂回する形になったが本年度はローマの金融研究に関する作業を先行して行なったが、とりわけAndreauの研究は、一方で紀元前3世紀から紀元後2世紀頃までの時間軸を金融の観点から包括し、他方で貴族エリート層(notables)の金融取引と銀行家の取引という異なる層の抽出を初め、金融とその媒介する経済社会の全体像を考察し描き出す精力的な試みであり、これとこれまでも蓄積してきたギリシャおよび法史学の知見を突き合わせて考察することで、一方でギリシャの金融構造の分析の基礎とし、他方でその法的装備と併せて近代歴史社会さらには現代への分析と折り返す基礎とする見通しが大いに進展した。 第二に、2010年代の、会社法・ガバナンス課題の背景をなす構造と金融・財政問題とは、異なる研究領域となってきた嫌いがあり、その連関について理論を展開することは容易ではなく、まさにその着想を得るために歴史学的作業による迂回を行っているものではあるが、前提となる個々の分析には一定の見通しを得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、第一に、現代のガバナンスと金融・財政の問題状況の分析を継続しつつ、第二に、古代社会については、ローマの金融研究をギリシャ研究に折り返す、2つの作業を行うことを予定している。 第一については、とりわけ金融に焦点を絞り、資金決済ないし資金移動といった取引を保障する制度、とりわけ情報通信の高度化する社会で分離の仕組みを要請してきた制度の意義を検討し、このことと経済社会構造との関わり、とりわけ株式市場や会社の組織構造との連関を検討・模索する作業を行う。 第二については、ローマの金融社会とその分節化された構造の持つ意義を理論的に一歩深める作業を行なった上で、ローマとギリシャの構造的差異に留意しつつ、ギリシャの金融構造の分析を行う。その際には、貨幣の流通と帳簿による決済取引の区分を基礎として、経済社会のあり方とどのような意味で連関しているかという次元でローマとの対比を行い、また常に中世や近代との比較を行うこととする。
|
Causes of Carryover |
本年度の研究費には少なくない残額が生じたが、これは新型コロナウイルスの感染拡大に起因するものであった。すなわち、第一に、本研究は欧語資料やヨーロッパにおける研究に負うところが極めて大きく、とりわけフランス、イタリアにおける文献資料の収集や研究打ち合わせを行うことを予定していたが、国内外の入国制限措置及び入国後の行動制限があったため国外への出張を組むことは容易ではなく、海外への出張は行うことができなかった。また第二に、国内においても、出張先として想定していた研究機関も、同機関への所属者以外の立ち入りや滞在時間を大きく制限していたため、資料収集、さらには研究打ち合わせにおいても出張を組むことが容易でなく、当初想定していた機会を大幅に減少させざるを得なかった。 次年度においては、国内の隔離措置の緩和が進むことが期待でき、先行して研究機関を開放している海外への出張を行うことは可能となることが見込まれ、とりわけアクセスに著しい困難を生じた考古学資料を初めとした文献資料を用いた研究を再開することを想定している。また、この間オンラインでのミーティングの機会は増えたものの、具体的な資料を用い、対面で議論を行うことにも否定し難いメリットがあることも改めて認識され、国内での研究打ち合わせの機会も増加することが想定される。
|
Research Products
(2 results)