2023 Fiscal Year Research-status Report
エビデンスに基づく知的財産法の分析と政策形成過程及び市場の役割・機能
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20K01412
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中山 一郎 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (10402140)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 知的財産法 / 特許 / 実証分析 / 市場 / 医薬品アクセス / 地域団体商標 / 特許無効審判請求人適格 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、①エビデンスに基づく知的財産法の分析、②立法・行政・司法・市場の役割分担について研究を進めており、令和5年度の主な研究実績は以下のとおりである。 公衆衛生と知的財産権の関係については、継続して研究を進めた。この問題は、医薬品アクセスを重視して知的財産権を制限すべきか(法の介入)、新薬開発インセンティブを重視して医薬品アクセスは市場の自主的な取組みに委ねるか(市場による解決)、という②の問題であると同時に、mRNAワクチンのような先端技術について知的財産権を制限すれば誰でも製造可能なのか、あるいは、製造ノウハウの自発的移転が必要なのか、という①の実証的な問題でもある。以上を踏まえ、知的財産権の保護義務を免除する提案の当否やWTOからWHOへのフォーラムの変化等の国際的な議論を分析し、知的財産権と健康への権利の衝突という新たな緊張関係の下での国際機関間の役割分担や、法による短期的な対応策と市場での長期的な対応策を組み合わせる解決の方向性について、国際学会等で発表するとともに、論文を公表した。 また、地域団体商標に基づいて商標権者の団体が、当該団体の非構成員である地域内アウトサイダーに権利行使できるかという問題について、団体による品質管理が半数程度しか実施されていないエビデンスを踏まえると(①)、権利行使による競争制限効果を重視すべきことを指摘し、市場と法の役割分担の観点から(②)、地域内競争への法的介入の在り方を検討した論文を発表した。 さらに、平成26年改正により「利害関係人」に限定された特許無効審判請求人適格について論文を公表した。この問題は、特許の有効性という専門技術的問題についてどこまで市場の情報を活用するかという市場との役割分担(②)の問題を含んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究において予定していた一部の研究課題については、既に成果をとりまとめて発表するなど、順調に進展している。例えば、職務発明に関する研究は、研究手法として各種の実証研究やデータのエビデンスを活用するともに、研究会での経済学者等との議論を通じて学際的な研究を進めた結果、既に令和3年度に一区切りとなる論文を発表している。 また、AIが提起する特許法上の課題は、特許保護がなければ市場においてAI 投資が進まないか(市場の失敗の有無)という問題と関連し、実証的問題(①)であると同時に、市場との役割分担(②)の問題でもあるが、令和4年度までに、発表した論文が我が国のみならず海外研究者の関心を惹き、海外の研究会でも発表機会を得るなどしている。もっとも、その後に生成AIの急速な進歩という新たな状況が生じ、当該状況を踏まえて研究を進めているところであるが、未だ論文等の公表には至っておらず、今後の課題である。 一方、公衆衛生と特許権の関係は、研究構想段階では想定していなかったが、COVID-19パンデミックを契機に取り組んだテーマであり、エビデンスの重視や法と市場の役割分担という本研究の問題意識に合致する課題として研究を進めており、既に一定の学会発表・論文公表を行っている。ただし、WTOからWHOへとフォーラムが変化し、WHOでのパンデミック条約交渉の状況が流動的である中で、公的資金から生じた成果のロイヤリティ低減義務や、病原体やその遺伝子配列をめぐるアクセス・利益配分という新たな論点が浮上したため、さらに検討を深めるべき課題を残している。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の研究の進捗状況を踏まえ、1年間研究期間をさらに延長する予定である。この間に生成AIの急速な進歩という新たな状況を踏まえた研究を進め、学会や論文などの成果の発表に取り組む。公衆衛生と特許の研究課題に関しては、WHOパンデミック条約交渉の動向を注視しつつ、厚生労働省等の政府関係者や海外研究者等の意見・情報交換も通じて、さらに研究を深化させる。それらも踏まえて、最終年度として研究成果をとりまとめる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、本研究を開始させた令和2年度から新型コロナウイルスの感染が拡大したために、参加を予定していた研究会等が中止あるいはオンラインでの開催に変更されたことや、所属研究機関の行動指針レベルにより資料収集や面談等のための主として東京との国内出張も自粛を求められたことなどから、令和2年度及び令和3年度に予定していた旅費が執行困難となった影響が令和5年度まで続いたことが大きい。また、それに加えて、令和5年度は、研究代表者が学内外の様々な業務に忙殺されたために研究の進捗に若干の遅れが生じた。 令和6年度においては、国内外の研究会等の中には対面に戻るものもある一方、引き続きオンライン開催となるものもあると見込まれる。他方、多数の海外の研究者が集まる学会が日本で開催される予定であるため、その機会を活用して、意見・情報交換を行う予定である。また、その他にも積極的に出張を行い、他の研究者との議論を行うための旅費や、最終年度のとりまとめ作業の一環としての資料整理等の人件費を執行する予定である。さらにとりまとめのための論文作成に必要な図書等を購入する。
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Research Products
(7 results)