2023 Fiscal Year Research-status Report
New Aspects of Karl Marx's Theory of Traverse in MEGA
Project/Area Number |
20K01573
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
守 健二 東北大学, 経済学研究科, 教授 (20220006)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | マルクス / 新オーストリア学派 / トラヴァース / 恐慌 / MEGA |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究の研究方法は、1)新オーストリア学派トラヴァース理論の理論的検討、2)マルクス経済学草稿におけるトラヴァース分析の発掘と理論的再構成、 3)学会報告、論文投稿等による研究成果の発信と討論、4)英文出版Book Proposalの準備である。 研究方法1)に関しては、連続時間、ラプラス変換を用いた新オーストリア派モデルとスラッファ多部門モデルとを統合したモデルのさらなる彫琢を進め、固定資本の耐用期間の「截頭(truncation)」を内生的に決定する方程式を考案し、解の存在証明を検討した。併せて、上記統合モデルとスラッファ-フォン・ノイマンモデルについて、解の一般性に関する比較検討を行った。研究方法2)に関しては、「新マルクスエンゲルス全集」(MEGA)第II/4.3巻の精査をさらに継続し、利潤率への資本回転の影響に関してマルクスが行っていた比較静学分析を新たに発掘した。この成果をまとめ、二つの国際学会において報告を行うとともに、当該分野の国際的なトップジャーナルに論文を投稿した。また、大英図書館において1850年代の工場監督官報告を調査し、マルクスのトラヴァース分析への影響関係を確認するとともに、トゥック、J.S.ミルの著作を解読し、それらの影響の可能性も確認できた。研究方法3)については、ヨーロッパ経済学史学会(ESHET)第26回大会および中国武漢大学で開催された国際学会で報告を行った。さらに、ドイツ社会政策学会経済学史部会に出席し、後述投稿論文と関連するアダム・スミスの資本概念について有用な知見を得た。それらの報告を踏まえ、European Journal of the History of Economic Thought(EJHET)誌に論文を投稿した。研究方法4)については、英文書籍を国際出版する企画について提案書の作成を開始した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究方法1)に関しては、固定資本の耐用期間の内生的決定について、解の一般性をめぐって、本研究の新オーストリア多部門モデルに対するスラッファ-フォン・ノイマン結合生産モデルの優位性を主張する最新の研究成果(Bidard: The truncation of investment flows, 2023)が公表された。これにより、その議論を精査し、連続的時間を用いる本研究の統合モデルの存在意義を改めて検討する必要が生じた。そのため、年度当初の計画では研究結果の国際誌への投稿を予定していたが、次年度へ繰り延べることになった。ただし、これは研究の深化による精緻化プロセスの発生であり、研究の単なる遅延とは区別されるべきであろう。研究方法2)については、年度当初の計画通り、研究結果の国際誌への投稿を実施した。また、大英図書館への出張・調査も計画通り実施した。研究方法3)については、計画通り、研究成果のESHETでの報告、ドイツ社会学会経済学史部会への参加を実施し、ほぼ順調に進捗した。研究方法4)については、国際出版の提案書の作成は研究方法1)の達成度と連動するため、次年度の早い時期に完成を目指すことになった。 以上から、全体として進捗状況は事業期間の延長によりかなりの程度改善した。ただし、アムステルダム社会史国際研究所への出張が未だ実施できず、そこでのマルクスのオリジナル原稿の調査が完了していない。その意味では、前年度までに発生したパンデミック等による出張機会の逸失がまだ完全には補填されていない状況である。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究方法1)に関して、2023年度までの研究成果を踏まえ、連続的時間、ラプラス変換を用いた新オーストリア派モデルとスラッファ多部門モデルとを統合した新たなモデルに、固定資本の耐久期間の内在的決定を加えて完成させ、そのモデルに基づく均衡分析、比較静学、短期・長期動学分析を行う。その上で分析結果の国際誌への投稿を目指す。研究方法2)に関しては、これまで延期されてきたアムステルダム社会史国際研究所への出張を実施し、次の2点で研究を実施する。まず、マルクスのトラヴァース分析の理論的再構成を精緻に行うために、錯綜した筆記状態として遺されているマルクスの1867-68年利潤率草稿のオリジナル原稿を実見する。第二に、マルクスのトラヴァース分析へ与えたトゥック『物価史』への影響を確かめるために、1857年にマルクスによって作成された未公表の大規模な『物価史』抜粋ノートを精査する。そしてその成果をまとめ、論文を国際誌に投稿したい。研究方法3)については、上記1)2)における論文執筆過程で専門家と意見交換を行い、論文の完成度を向上させるために、新たに二つの国際学会への参加ないし報告を実施する(2024年8月2-4日開催The 17th World Association for Political Economy (WAPE) Conference, 同8月1-8日開催The 25th World Congress of Philosophy)。研究方法4)については、英文書籍を国際出版する企画について提案書の作成を引き続き継続する。ただし、同出版および、1)2)において作成される論文は内容的に関連するために、それぞれ単独公刊ではなく、統合した形で公表する可能性も視野に入れる。
|
Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由は、上記「現在までの進捗状況」において述べたように、マルクスのオリジナル原稿の実見のためのアムステルダム社会史国際研究所への出張を計画通り実施することができなかったが、事業補助期間延長が承認されたので、2024年度に当該の課題を実施するためである。具体には、研究方法2)に関連して、マルクスのトラヴァース分析の理論的再構成を精緻に行っていくに当たり、MEGA第II/4.3巻に所収されたマルクスの1867-68年利潤率草稿が錯綜した筆記状態として遺されているために、マルクスのオリジナル原稿ならびに関連史料を実見する必要がある。またマルクスのトラヴァース分析へ与えたトゥック『物価史』への影響を確かめるために、1857年にマルクスによって作成された未公表の大規模な『物価史』抜粋ノートを精査する必要があり、それらの史料を所蔵するアムステルダム社会史国際研究所へ出張を実施する。併せて新たに、上記「今後の研究の推進方策」で述べたように、補助事業の目的をより精緻に達成するため海外の二つの国際学会(The 17th World Association for Political Economy (WAPE) Conference, The 25th World Congress of Philosophy)に参加する。
|
Research Products
(4 results)