2020 Fiscal Year Research-status Report
議院内閣制の政治経済学:内閣不信任決議と議会解散権を分析する理論的枠組みの構築
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20K01734
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
浅古 泰史 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (70634757)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 選挙競争 / 政治的エージェンシー問題 / 応用ゲーム理論 / 議院内閣制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、議院内閣制下における選挙競争を分析するモデル、および2つの政治的エージェンシー問題(政治家が有権者の好む政策を実行しないモラルハザード問題と、好ましくない資質を有する政治家が当選してしまう逆選択問題)を分析するモデルの基本的枠組みを提示することである。
2020年度は主に、選挙競争に関する研究を行った。従来の選挙競争のモデルでは、公約と政策の意思決定の区別は行っていなかった。そこでは、選挙前に発表した公約を裏切ることは無く、選挙勝利後に公約が必ず実行されると考えている。しかし、実際には公約と政策に対する意思決定を分けて分析すべきである。同時に公約は政党がマニフェストなどを通して発表される一方で、各議員は政党公約に従うか否かの決定を強いられる。よって、公約の信頼性を考える上で、政党あるいは総理大臣の力の強さは大きな決定要因である。よって、公約の信頼性を考える上で、政党あるいは総理大臣の力の強さは大きな決定要因である。例えば、(党首でもある)総理大臣が議会解散権を有していた場合、解散総選挙において政党に反発した所属議員を公認しないことで、罰を与えることができる。その結果、議員は政党・内閣に従うインセンティブを有するようになり、政権政党が発表する公約は信頼性が高いものになる本研究の1つの大きな目的は、内閣不信任決議・議会解散権の影響を、政党の強さや選挙公約の信頼性などの側面から分析していくことである。
2020年度は、この公約に関する研究代表者が行った研究をまとめたうえで、今後の将来の研究への展望をまとめた著書『Analyzing Electoral Promises with Game Theory』を執筆し、Routledge社より出版した。それと並行して、政治的エージェンシー問題に関する研究も行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍による影響で、特に2020年度前半における新規研究の進捗は遅れた。また、当初予定していた海外学会や国内学会・セミナーにおける発表の機会は大幅に減り、研究に対するコメントを得る機会も失われた。その一方で、出版予定であった著書を執筆・完成させる作業には注力することができ、予定より数年早くRoutledge社より出版することができた。よって、新規研究に関してはやや遅れているものの、著書の執筆に関しては当初の計画以上に進展したことから、全体としてはおおむね順調に進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度以降は、選挙競争に関する研究を引き続き行うとともに、議院内閣制における内閣不信任決議などの存在が、政治的エージェンシー問題に与える正と負の影響を理論的に明らかにしていく。具体的には、以下の通りとなる。
過去の研究に基づいて考えた場合、不信任決議や議会解散権によって選挙が頻繁に行われることで、モラルハザード問題と逆選択問題は軽減されると言える。しかし、その一方で総理大臣の任命は議会、実質的には政権政党によって決定される。総理大臣の選定に際し、その資質や能力を調査するために政党は一定の費用を払っている。大統領制では一度大統領となってしまえば任期満了するまで基本的に辞職はしない。よって、好ましくない資質を有する大統領を選択することの損失が大きいため、予備選挙などを通し長い期間をかけて大統領の候補者が選定される。一方で、議院内閣制では、政党が誤って能力の低い総理大臣を任命したとしても、内閣不信任決議などを通して変更することができる。そのため、総理大臣候補者の質を吟味する必要性は高くなく、派閥などの能力以外の要素が選定に影響を与えるため、総理大臣の質を低下させてしまう可能性がある。その結果、政権政党は変わらないのにもかかわらず、総理大臣が頻繁に交代する現象が生じると考えられる。以上の点を、ゲーム理論を用いて明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による影響で、当初予定していた海外学会や国内学会・セミナーにおける発表の機会は大幅に減ったことにより、主に旅費を中心に予定していた予算を消化することができなかった。そのため、次年度使用額が生じてしまった。
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Research Products
(1 results)