2020 Fiscal Year Research-status Report
Historical Sociological Study on Social Resarch and Qualitative Research Method in the early postwar period based on Kiyomi Morioka Resaerch Documents
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20K02133
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
小林 多寿子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任教授 (50198793)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 質的調査 / 森岡清美 / 歴史社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代の社会調査が数量的×質的調査二分法で分かたれる以前の戦後初期の時代に、どのような社会調査がいかなる方法によっておこなわれたのかを精査し、未分化な社会調査の時代からいかに質的調査が分化して今日的な質的調査法として実践されるようになったのか質的調査法成立へのプロセスを明らかにすることをめざしている。その狙いは1977年刊行の中野卓編『口述の生活史』がライフヒストリー法リバイバルとされる認識によって生じたそれ以前の質的調査の空白期を再考することで質的調査の系譜を再構成し、現代の社会調査の礎を確かにすることにある。 とくに戦後初期より独自性の高い質的調査研究成果を数多く輩出した社会学者森岡清美の調査資料群から1950年代60年代の宗教調査と家族調査に着目し、そのリサーチデザインや調査手法、調査展開や調査成果を精査しながら、単純な二分法では収まりきらない調査実践の豊かさを明らかにするために調査研究に取り組んでいる。1977年以前の社会調査実践の精査によって質的調査の系譜を再構築するだけでなく、1950年代60年代に実施された経験的調査で得られた知見が宗教社会学・家族社会学の各分野で研究の先端を切り拓いたプロセスを描き出すこともめざしている。 森岡が保存していた当時の社会調査資料は、森岡調査資料群として整理しつつ、利用許諾を得て1950年代60年代の調査研究に焦点を絞って調査内容を検討している。初年度(2020年度)は当時の調査資料から、調査手法、調査展開、調査成果との関連で具体的な調査実践の検討をおこなっている。コロナ禍による現地調査実施の制約に見舞われながらも、当時の調査地の訪問調査による現地確認や先行する社会調査の関連調査地の視察、森岡調査のバックグラウンドとなった関連調査の探究にもあわせて取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、森岡調査資料をもとに、1.1948年から1977年以前を三期に区分して調査内容の考察、2.社会学的に重要な二つの研究成果作品からの遡及的検討、3.ケース・ライフ・個人を質的調査のキーワードとした言説分析と歴史軸から総括という3点を軸に研究を進めている。本研究のめざすところは、今日に連なる質的調査がいかに実践され成立していたのか調査の実際と成果の関係をふまえて見いだすことにある。この問いは、当時、実証的社会学研究がどのような調査手法によるいかなるデータにもとづいて新たな経験社会学的知見に達していたのかというもう一つの問いを重ねて、社会学的知へ至るバックヤードを探究し社会調査成立の初期の知の生産実態を歴史社会学的に解明することもねらっている。したがって、オリジナルな調査資料の精査の一方で、調査手法の展開と多様化が時代の進展に共振的に連動しているという観点から、時代ごとのバックグラウンドも探究し、さらに調査地訪問調査により当時の調査を現時点から跡づけるリ-スタディ調査もおこなっている。 初年度(2020年度)は1と2を中心に取り組む計画であったが、2020年度はコロナ禍によって現地調査、とくに対面的インタビュー調査の困難な事態が続いており、調査地再訪によるリ-スタディ調査は十分な実施が難しい状況が続いており、遅れをもたらしている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の中心的な問いは、1950年代から60年代の数量的×質的未分化の時代から分化していく過渡期の調査実践を精査することで社会調査の実態を確認し、1977年をライフヒストリー法リバイバルとする質的調査史の通説を覆して今日に連なる質的調査がいかに実践され成立していたのか調査の実際と成果の関係をふまえて見いだすことにある。 この問いに対して、森岡調査資料群は、戦後社会調査の出発期の質的調査形成の実際を解明するのに適った貴重な資料である。これらの原資料を調査群の系譜論的視点で再検討し、現地調査の再確認調査も併用して取り組むリ-スタディ調査は重要な試みと考えている。歴史的背景も踏まえた上で当時の実践された調査法と析出された成果を対照させながら、調査手法ごとにデータを精査した上で一般化されうる社会学的結論がいかに導出されたのかを検討する。 このような問いとねらいのともに、①1948年から1977年以前を三期に区分した調査内容の考察、②社会学的に重要な二つの研究成果作品からの遡及的検討、③質的調査のキーワードによる言説分析と歴史軸から総括という三点を軸に森岡調査資料群の調査研究を進めている。 当初の研究計画では、2020年度・2021年度は①と②を中心に取り組み、2022年度は③の分析に加え、学会の専門領域での中間報告を経て、2023年度には研究課題の補足調査と総括をおこなうという研究展開をプランニングしていた。2020年度は緊急事態宣言の解除された時期に短時間の調査地再訪調査しか実施できなかったが、2021年度も依然としてコロナ禍の見通しは厳しいものの、計画の遂行順序を入れ替える等の柔軟な対応によって調査研究を推進していく予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウィルス感染症感染拡大により、対面的インタビュー調査を含むフィールドワークの実施が困難な状況になった。1950年代60年代の森岡調査の特徴は、日本の各地で現地調査をおこない、そこで得た調査データを基本的資料として地域社会における家族組織や生活実態、宗教的慣習や地域集団のありようを論じたところにあるので、かつての調査地を再訪して確認する調査は不可欠と考えている。コロナ禍によりフィールドワークを延期したことに加えて研究室での共同作業をともなう資料整理を見送ったことにより、当初予定していた予算を次年度に繰り越す結果となった。今後は、感染状況を注視しつつ、予防策を十分に講じて可能なところから調査活動に取り組む予定である。国外での関連アーカイヴ調査の実施については見通し難いが、状況が好転したら実施予定である。
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