2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K02537
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
柳澤 有吾 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (90275454)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
天ケ瀬 正博 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (00254376)
米津 美香 奈良女子大学, 人文科学系, 助教 (50735446)
功刀 俊雄 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70186427)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 道徳教育 / 「星野君の二塁打」 |
Outline of Annual Research Achievements |
道徳の教科化と2018年の日大危険タックル問題との関連で注目された定番の道徳資料「星野君の二塁打」について、教育学のみならず、歴史学、心理学、哲学・倫理学など複数の視点から多角的かつ総合的にアプローチすることによって、従来の「星野君の二塁打」像を更新するとともに、そこに典型的な仕方で表れている道徳教育や道徳的諸価値の捉え方、道徳性に関する見方などの問題性と課題を明らかにすることが第一の目標であった。2020年度の研究成果として刊行された書籍『「星野君の二塁打」を読み解く』では、以下のような考察を行った。 ①教育学的観点からは、「星野君の二塁打」の詳細な分析のうえに、文学、国語、道徳の相違点・関係性とその諸相を明らかにすることを試みるとともに、「全校道徳」実践に即して、子供たちの深い道徳的学びを可能にする条件について考察した。②心理学的観点からは、社会的分断や全体主義の危険性に対して、多元的で多様な現実における人々の生き方を間主観的・相互主観的に伝えることの重要性を確認し、集団への義務ではなく危機に瀕するひとりひとりに対して義務を果たすこととして「犠牲」を捉え直す必要性を論じた。③歴史学的観点からは、「星野君の二塁打」の誕生をテーマに、「星野君の二塁打」執筆(1947年)以前の吉田甲子太郎の少年小説および少年小説論における「星野君の二塁打」創作に繋がる諸契機を探り、困難に負けずに伸びあがっていこうとする少年の生命力がそのひとつの焦点になっていることを明らかにした。④哲学的・倫理学的観点からは、近年の代表的論考に即して従来の外在的な「星野君の二塁打」像の問題点を示すとともに、作品内在的な読み方の可能性を探り、両者を見通したところから「星野君の二塁打」の可能性と限界について見極めることの必要性をあらためて確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『「星野君の二塁打」を読み解く』と題する著作を令和2年度末に刊行できたことによって、「星野君の二塁打」像の更新という部分については一定の成果が得られたので、その点からすれば、当初の計画以上に順調に進展しているといえる。ただし、当初予定していた文献調査やそれに基づく二次的探索がコロナ禍でほとんど行えなかったため、資料的な限界を残す部分はあり、引き続きそれを補う作業やあらたな観点から再考する作業は課題として残されているので、全体としては「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
国会図書館や教科書図書館等における調査とそれを踏まえた文献探索等を進めることによって、これまでの成果の検証・深化を図るとともに、「星野君の二塁打」研究の視座に関する考察につなげていくことが今後の課題である。ただし、コロナの影響が長引くことも予想されるので、遠隔で入手可能な資料で可能な研究(部分)を先行させることや、オンラインでの研究会開催など、いったん立ち止まって別の仕方で研究の幅を広げることも検討したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症のために移動や図書館・資料館等の施設利用に大きな制約が生じたため、調査研究部分で遅れが生じている(その影響で過去の資料の収集・購入も進んでいない)。この遅れを可能な限り2021年度に取り戻したいと考えているが、年度前半はまだ十分な活動が行えない可能性も高い。その場合は最終年度ぎりぎりまで調査研究を継続し、まとめ作業と並行させる予定であるが、進捗状況次第で補助事業期間延長申請を行うことも考えたい。また、一部については、オンライン研究会の開催やその報告集作成など、当初計画とは異なる仕方で研究を充実させる費用に充てることも検討したい。
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Research Products
(1 results)