2020 Fiscal Year Research-status Report
「後発高等教育機関」の教育史的研究ー既存の法学・経済学教育に対する独自性の追求ー
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20K02957
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Research Institution | Okinawa University |
Principal Investigator |
岩垣 真人 沖縄大学, 経法商学部, 准教授 (90802851)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
楠山 研 武庫川女子大学, 教育学部, 准教授 (20452328)
牧野 邦昭 摂南大学, 経済学部, 教授 (20582472)
松山 直樹 兵庫県立大学, 国際商経学部, 准教授 (80583161)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 高等教育 / 大学史 / 経済学史 / 法学史 / 新制大学 / 女子教育 / 沖縄 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究のスタートにあたる令和2年度においては,各研究者が,それぞれの領域について,その起点としての「先発性」についての分析を深化させることにより,続く令和3年度以降の研究を推進させるための分析の軸が獲得できたと評することができる。 この研究は,東京帝国大学(より精確には,固有名詞としての帝国大学)こそが近代日本における法学・経済学の出発点であり,そして先行者であると措定してスタートしたものであるが,そもそも,その先行性は相対的なものであり,大学令が述べる「国家ニ須要ナル学術」を修めた人材を養成するという観点からは,むしろ慶應義塾などを先行者として把握することが適切である。従って,法学史・経済学史(そして,そうした領域の学知を教授して行われる国家官僚の養成)という観点からは,通説的な東京帝国大学から他の高等教育機関へ,という片面的関係だけではなく,両者の相互作用として,歴史を記述し,分析する必要があることが確認される。 同様に,戦後新設された琉球大学においても,たしかに米国型のランド・グラント大学構想や,ハワイ大学の実践などは範型とされるものの,先行モデルはそれだけに限定されず,旧制大学,そしてGHQ肝いりで設立された新制諸大学の実践例なども,比較し,制度設計・変更の際には範とするべきものとされていたことが確認された。県立神戸高等商業学校においても,旧制大学となった官立神戸高等商業学校や,他の帝国大学だけではなく,一谷藤一郎の研究・教育実践からは,直接的に,オーストリア経済学派の研究を範と仰ぎ,実践を志していたことが窺える。また,「後発」ということからは,女子の高等教育が浮かび上がるが,その軸となった家政学は,学として検討すれば,その淵源をどこにたどるものか,検討を深化させる必要がある。 令和2年度の研究成果は,上記のような検討軸の再発見であると評価できよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は,新型コロナウィルスの感染拡大により,当初想定していた,対面での研究会等を軸とした研究推進を図ることはできなかったものの,研究者相互で,オンラインツールを活用しながら研究情報の共有を図り,また文献調査を軸としながら,研究を進めることができた。文献調査についても,感染状況が悪化する時期においては,必要な文献を所蔵する公共施設へのアクセスが制限されるなど,支障が生じることもあったが,一時的ではあれ,感染状況が落ち着きを見せると,部分的であるとしても,アクセスが可能になったため,そのような範囲内で,調査を継続することができた。 もっとも,その代わりに文献調査を進展させることができたとは言え,インタビュー調査など,対面で実施する必要があるリサーチについては,令和2年度の実施は,見送らねばならないものもあった。オンライン会議ツール等の進歩により,遠隔形式でのインタビュー等も可能にはなったが,対象者が機械操作等に不慣れである場合や,そもそも,非対面形式では対象者との適切なラポール形成が図りづらいという場合は,令和2年度の実施を断念した。これらのケースについては,新型コロナウィルスの感染状況をにらみながら,令和3年度以降に実施する予定である。 なお,研究全体としては,文献リサーチを軸としながら,各研究者がそれぞれの課題について取り組み,適宜連絡を取りながら,最終的に,令和3年2月25日にオンライン会議ツール(Skype)を利用した研究報告会及び検討会を行い,各研究者の,令和2年度の研究内容の共有と,共有された知見に基づき,今後,研究を推進するにあたり,全体の課題は何か,議論を行い,令和3年度以降の研究についての方針を作成し,全員で共有することができた。この研究報告会及び検討会で共有された課題に基づき,当初の計画とそう距離を置かず,研究を遂行することが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度以降は,新型コロナウィルスの感染状況をにらみながら,オンラインツールを令和2年度以上に活用しつつ,できる範囲でリサーチを推進していく予定である。とりわけ,令和2年度においては,対象者の状況によっては,インタビュー調査等を控えざるを得ないこともあったため,特に感染時の症状悪化リスクの高い対象者に対しての対面調査を,今後の感染状況,またワクチン接種状況の進展と照らし合わせながら,推進していく予定である。 令和3年度以降,内容面では,この研究が課題とする,「後発的」概念の前提となる,モデルとなる「先発」的なものは何か,そのような根本的問い直しを起点に,検討を進めていくことが期待される。通説的理解においては,「先発」的なるものとは,東京帝国大学(より精確に表現すれば,固有名詞としての帝国大学)を指すが,しかし,そもそも,「国家ニ須要ナル学術」を修め,草創期明治国家を支えた官僚団は,慶應義塾が育成した人材であり,そのような傾向は転機となる明治16年の政変まで続いたはずである。であるとするならば,京都帝国大学や他の帝国大学,そして新制諸大学が「先発」として仰ぐとされる東京帝国大学の「先発性」は相対化されうるものであり,慶應義塾等の「先発」高等教育機関との相互関係を念頭に,その「先発性」が再検討される必要がある。 同様のことは,琉球大学を軸とする分析や,県立神戸高等商業学校,そして女子高等教育機関の分析にあたっても,提示することが可能で,かつ,分析を深化させる必要のある検討課題である。「新制大学」としての琉球大学における旧制大学の影響や,県立神戸高商における,オーストリア学派経済学の直接的な影響,そして,戦後女子高等高等教育の発展と,キーとしての家政学の再検討など,同様に,令和3年以降の研究を,起点となる「先発性」の再検討を軸に推進していくことを計画している。
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Causes of Carryover |
令和2年度は,新型コロナウィルスの感染拡大の影響があり,対面での研究会実施やインタビュー調査,そして公文書館等,所蔵先が遠隔地である資料調査の実施等に係る旅費として支出することができなかった。 予定していた研究会の実施や,一部インタビュー調査は,オンライン会議ツールを活用して実施し,代替することが可能であったが,研究スタート当初に予定していた調査の一部は,令和2年度に実施することを断念した。ただし,その代わりに,アクセス可能な文献等を利用しての調査を遂行することができたため,研究総体としては,大幅な遅れ等が見られずに,順調に研究が遂行され得ていると評価することができる。 なお,令和2年度に実施を断念した調査等に関しては,新型コロナウィルスの感染状況や当該ウィルスを対象としたワクチンの接種状況を確認しながら,令和3年度以降に順次実施する予定である。また,可能な限り早期に,対面形式での,各研究者による研究会を実施することが予定され,メンバー間でも合意を得ることができている。
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Research Products
(1 results)