2022 Fiscal Year Research-status Report
「後発高等教育機関」の教育史的研究ー既存の法学・経済学教育に対する独自性の追求ー
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20K02957
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Research Institution | Okinawa University |
Principal Investigator |
岩垣 真人 沖縄大学, 経法商学部, 准教授 (90802851)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
楠山 研 武庫川女子大学, 教育学部, 准教授 (20452328)
牧野 邦昭 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (20582472)
松山 直樹 兵庫県立大学, 国際商経学部, 准教授 (80583161)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 高等教育 / 大学史 / 経済学史 / 法学史 / 新制大学 / 女子教育 / 沖縄 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度の共同研究においては,各担当分野の検討課題を深化させていくことができた. まず,旧制県立神戸高等商業学校についてのリサーチでは,図書館が所有する蔵書についての検討からさらに歩を進め,カリキュラムについてその全体像を検討することができた.また,「後進的」な「私学」としての慶應義塾大学の分析においても,広く戦前期経済学思想のコンテクストを検討することによって,その精確な位置づけを定めることができた.そして,米国施政権下沖縄における琉球大学の研究についても,連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)ないし米国民政府(USCAR)の意向を踏まえた実践的大学としての性格や,1972年の沖縄「復帰」とそれに呼応した琉球大学の国立大学移管に先立ち,教育と研究を分離させる,アメリカ型の大学システムが検討され,実施に移されようとしていたこと,そしてしかしながら,国立大学への移管という状況下でそれが立ち消えになり,その後顧みられようとはされていないことなど,戦後教育史上の,米国施政権下沖縄における大学教育としての特異性を描き出すことに成功したと考えている.さらに,日本高等教育史における女子教育の分析についても,いわゆる家政学を軸とした女子教育・内的な分析を超え,他の学問領域との接合関係を検討することに着手できている. 他方で,令和4年度においても,新型コロナウィルス禍の影響はある程度残り,時期により対面での研究会が実施できなかったり,また大学図書館等の資料の利用に制限がかかることなどもあり,一定程度代替プランの実施を余儀なくされた.それらについては,web会議システムを利用することや,他のアプローチ(文献調査ではなく,インタビュー調査を実施するなど)を模索することなど,別の手法を用いることで対応し,計画との差異は生じたものの,共同研究全般において支障を生じさせる程度のものとはならなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度までの共同研究においては,当初想定していた通り,各担当分野の検討課題を深化させていくことができた. 旧制県立神戸高等商業学校についてのリサーチでは,初代校長である伊藤眞雄の思想的背景について検討を重ね,イングランド留学で培われた彼のモットーが,教育/研究環境にどのように波及的影響を及ぼしていったのか,図書館が所有する蔵書,そして実際のカリキュラム編成へと検討を進めていくことができている.また(法科大学/法学部から析出され,分離していったものとして)「後進的」な経済学における「後進的」高等教育機関の(第二の帝国大学としての「後進性」を有する)京都大学や(非官立としての「後進性」を有する)慶應義塾大学についても,とりわけ戦前期の経済(学)思想のあり方について,その独自の意義の分析を進めることができている.そして,米国施政権下沖縄における高等教育についても,アメリカにおける国有地交付大学をモデルとした琉球政府立琉球大学の実践的性格について,それが実際にどのような面から伺うことができるのか,主婦層を対象とした琉球弧巡回講習など,具体的な面から検討を重ねることができた.また,女子高等教育についても,教育学の枠にとどまらず,特に他領域の学問分野との接合関係を検討するアプローチを採用し,研究を遂行することができている. 他方で,やはり令和4年度までの期間においては,新型コロナウィルス禍の大きな影響が生じたことは事実である.特に,人的交流が制限され,その影響で対面での研究会実施を断念したり,資料の利用に制限がかかることもあった.しかしながら,web会議システムを利用することなど,新型コロナウィルス禍以前にはあまり利用がメジャーではなかった手法を採用することで,もちろん影響は生じたものの,全体として共同研究の進展を阻害するようなものとはならなかったと評価することができる.
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度の共同研究においては,特に前半期において,各担当領域について,令和4年度までの検討を総括させる研究を進め,その後,後半期において,それぞれの領域のものを統合し,当研究課題の全体像を描いたものを成果としてアウトプットし,幅広い領域の学界のコメントを仰ぐ予定である. この,特に全体像を描写する段階においては,主として教育学/教育史における知見をベースとした統合が欠かせない.まず,非官立の「公立高等教育機関」(①旧制県立神戸高等商業学校)や「私立高等教育機関」(②慶應義塾大学)としての高等教育組織の存在形態,また日本「国外」における高等教育機関としての③琉球政府立琉球大学,そして男子が「当然に想定」される中での④女子高等教育の意義について,それぞれを統合しうる「後発的高等教育機関」概念を明確化させ,それを教育史のコンステラツィオーンと照応させつつ,単に教育史にとどまらない意義を持つ,描写を予定している. また,令和5年度においては,新型コロナウィルスのいわゆる5類移行が政府方針として決定されていることを前提に,令和4年度までの期間,新型コロナウィルス禍によって実施が難しかったようなアプローチを採用し,研究を進めることも予定している.もちろん,一方で共同研究自体は「おおむね順調に進展している」こともあり,また他方で,令和5年度の研究は,当初から総括的なものとして予定していたものであるため,新型コロナウィルス禍の影響が限定的になったとしても,なにか共同研究について,抜本的な変更ないし追加があるということは考えていない.しかし,共同研究グループを超え,対面での研究会を頻繁に実施することで,追加的な研究課題を獲得したり,また大学図書館等が所蔵する資料等へのアクセスが可能になると想定されるため,それにより,従来展開した論を補強するなど,追補的なものを期待することができると考えている.
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス禍の影響により,遠隔地における調査について制限(所属機関による制限や調査先からの制限)があったため,それらを実施することができず,当初計画では予定していた,旅費としての支出等が発生せず,次年度使用額が生じることとなった.また,同様に,対面での研究会が実施できず,web会議システム等を利用しての実施という形式を採用せざるをえなかったことも,これらの次年度使用額発生の原因となっている. 令和5年度の研究においては,現在までの主として二次文献等を軸としたリサーチの積み重ねを補完するべく,遠隔地においての調査を実施する予定である.また,上述の通り,令和4年度までの期間,特に新型コロナウィルス禍の影響が強くあった時期において,web会議システム等を活用して研究会を実施していたが,それに替え,対面での研究会を実施する予定であり,そこに対しての旅費等の支出が予定されている.一方で,web会議システム等を用いた研究会は実施が簡便になるという利点があるものの,他方,未だ通信トラフィックが完全に安定しているとは言えず,状況によっては途絶するケースもままあり,また応答のレスポンス等の遅延状況からも,自由闊達な意見交換の進展は面もあり,従って旅費支出を計上した上でも,対面での研究会を実施することには合理的な意義が見いだせると考えている.
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Research Products
(1 results)