2020 Fiscal Year Research-status Report
研究指向教学IRのフロンティア:データに基づく高等教育改善の問題点と可能性
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20K02961
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮本 淳 北海道大学, 高等教育推進機構, 特任准教授 (00374645)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 教学IR / 教育評価 / 高等教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度の計画に沿って研究志向の教学IR推進における問題点収集のための聞き取り調査の準備を進めた。あらかじめ大まかな質問項目を決めておき、対話の中で必要な情報を採取する半構造化インタビューを計画しており、その質問項目の設計するため、これまで開催された教学IRに関するシンポジウム等で議論された内容や質疑応答の内容を整理した。その結果、大学の設置形態や規模、教学IR担当者の立場によって共通する問題が存在するという仮説を得て質問項目や聞き取り調査対象の分類に反映することとした。具体的には大学設置形態については、国立/私立、総合大学/単科大学、学生数、立地条件(近隣の大学設置状況)などを考慮する必要がある。教学IR担当者については、事務職員主導/教員主導/事務職員・教員協働の立場に加え、教学IR担当部署がどこにどのように所属しているのか(専門部署/大学執行部直下の専門部署/事務組織/各学部に分散/専門部署はなく1~数名の担当者がすべてを担うなど)の視点も重要であることが明らかになった。聞き取り調査実施については、研究開始時より新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け、今年度は対面で実施することができなかった。年度末には、ごく限られた範囲ではあるがオンラインによる聞き取り調査を行った。以下のようなことが明らかになった。総じて、実データの利用の可否の問題が大きいことがわかる結果となっている。(1)教員が主導している場合、研究業績として残すために研究志向の教学IR推進を意識していると考えられるが、大学のデータ利用方針などが明確に解決していないために、実データに触れない方法論に関する報告が多い。(2)職員主導の場合、業績に縛られることはないが、自身の業務が対外的には機密事項となることもあり、業務実績として見せることができないこともある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の主要な研究実施項目としていた各大学を訪問して対面で行う聞き取り調査が、新型コロナウィルス感染症拡大にともない、研究開始当初より実施することが困難になった。今年度前半は、事態が収束して制限が緩和されれば、訪問が可能になることを期待して準備を進めていたが、結果的には1回も訪問調査は実施することができなかった。並行して、文献、ホームページ等から研究として教学IRを推進する上での問題点に関する資料収集を試みたものの、聞き取り調査の目的が公表されていない情報を得ることであったので、必要な情報がほぼ得られていない状況である。しかし、文献調査を行ったことによって、あらためて本研究の主要課題である研究志向の教学IR推進が進んでいないことを確認できた。さらに、今年度後半になっても新型コロナウィルス感染症拡大の収束が見込めないものの、各大学のオンライン会議の整備が急速に進んだことから、オンラインでの聞き取り調査を考えた。しかしながら、教学IR担当者の立場によっては、回答し辛い可能性のある質問が含まれていたことやオンラインでは聞き取り調査の意図がスムーズに伝わらないことを危惧し、オンライン利用は躊躇する結果となった。その後も収束が見込めないことから、止むを得なく年度末にごく限られた範囲でオンラインによる聞き取り調査を行った。現状で対面による聞き取り調査が実現していないので、オンラインと対面の相違を客観的に論じることはできず、場の雰囲気をつかむことができないなど感覚的には一定の支障を感じるが、オンラインによる聞き取り調査でも本研究を進めることが不可能ではないと判断している。結果的には、副次的な知見が得られたことと聞き取り調査着手の時間的遅れを総合的に勘案し、進捗を「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度実施予定であった聞き取り調査数を増やすために引き続きオンラインを中心にして質的調査を進める。次年度前半に限れば、新型コロナウィルス感染症の影響により、都道府県、国を越えての出張の制限緩和は難しいと想定されるので、近隣大学への訪問調査を計画的に行う予定である。聞き取り調査においては、各大学の教職員、学生の様子、各種データの掲示状況などの空間的な環境情報も重要な調査要素としているので、オンラインで訪問による調査のすべてを補うことはできないと考えている。オンライン調査の長所と問題点を常に意識しながら慎重に調査を進めたい。次年度後半以降、状況が許せば出張による聞き取り調査を行う。教学IRの研究事例、活用事例に関する海外研究者との共同研究については、訪問しての議論を計画していたが、実現は困難であると予想されるため、これについてもオンラインを活用するなど方法を変えることを早めに検討したい。本研究は、これまで主に個々の大学内で閉じた活動として捉えられていた教学IRを日本の高等教育全体の改善に生かすために研究の俎上に載せることを目的としている。国内外を問わず全大学共通の問題である新型コロナウィルス感染症拡大の影響は、オンライン授業の在り方、さらには大学の在り方を数値で客観的に評価する教学IR活動の考え方や方法論を拡大するきかっけにもなると考えている。次年度実施を予定しているアンケート調査においては、その点を考慮した質問項目を加えて行う予定である。
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Causes of Carryover |
研究開始時より新型コロナウィルス感染症拡大の影響を大きく受け、出張による研究推進が困難となり、令和2年度に予定していたすべての出張を中止した。結果として令和2年度の旅費の支出はゼロとなった。当該旅費は、令和2年度経費総支出の約4割を占める計画であったので、相当の予算を次年度使用額として繰り越すこととなった。今後の使用計画については、新型コロナウィルス感染症の事態が収束し、制限が緩和されれば、状況に応じて出張を行い、研究を推進したいと考えている。しかし、不確実な要素が多く、出張に関する綿密な計画は立てられない状況である。さらに、計画している外国出張については、用務先の状況も慎重に考慮する必要があり、令和3年度中の出張は難しいと考えている。研究推進には、オンラインを活用せざるを得ない状況にあるため、その設備、特にWeb会議システムの充実に経費を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)