2021 Fiscal Year Research-status Report
Resilient disaster management to promote evacuation behavior
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20K03321
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
元吉 忠寛 関西大学, 社会安全学部, 教授 (70362217)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 避難行動 / 災害自己効力感 / 防災教育 / レジリエンス / シナリオ実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
災害の発生が予測される状況で避難指示などの情報が出されても、住民が適切な避難行動を行っていないことは繰り返し指摘されている。本研究では、災害のリスクではなく、対策行動のポジティブな側面に着目することによって避難行動を促進する方策を見つけ出すことを目的としている。 今年度は、平成30年(2018年)7月豪雨(西日本豪雨)で大きな被害が出た広島県、岡山県、愛媛県の各市町村を対象としたアンケート調査を実施し、避難所としてホテルや旅館などの宿泊施設がどの程度利用されているのか実態を把握した。その結果、住民がホテルや旅館などの宿泊施設に避難した場合の支援制度があるという自治体は非常に少なく、ほとんどの自治体には、そのような支援制度がないことが明らかになった。また、広島県、岡山県、愛媛県の住民に対して、避難行動に関する意識調査をインターネットで行った。その結果、「災害時にホテルや旅館などの宿泊施設に避難することができるのならば宿泊施設に避難したいか」という設問に対して、「ややそう思う」または「非常にそう思う」と回答した人もいずれの県においても約70%であった。多くの住民は、プライバシーも保たれ快適に過ごすことができるホテルや旅館のような場所への避難を望んでいる。コロナ禍で分散避難が推奨されホテルや旅館への避難も選択肢に入るようになったが、そのような方向にはまだまだ進んでいないことが明らかになった。 さらに、防災対策行動(飲料水の備蓄、災害時用のトイレの購入)の促進に関するシナリオ実験を行った。対策行動のポジティブな側面を強調したメッセージによって防災行動意図が高まるかどうかを検討した。その結果、対策行動に関するポジティブな情報よりも、災害時のネガティブな情報を強調したメッセージの方が行動意図を高めることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き新型コロナウイルス感染症の流行により出張が制限されており、被災地や快適な避難施設が整っている地域における住民へのインタビュー調査の実施は困難だった。このため、インタビュー調査にかえて、自治体へのアンケート調査による避難所の実態把握、住民を対象とした避難所に関する意識調査などを実施した。 また昨年度中に実施できなかったシナリオ実験を行った。実験の結果は、本研究で想定している仮説を実証するものではなかった。このため、説得メッセージに関する先行研究を精査した上で、さらなるシナリオ実験を行う必要があると考えている。 なお、今年度は防災教育を実施する協力校を確保することができず、防災教育を行うことはできなかった。昨年度の防災教育プログラムの実践と効果検証の結果からは、短期間の防災教育で、災害自己効力感を高めることは難しい可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた災害対応として、分散避難が推進されるようになったという社会的な変化は本研究の進捗状況に対して大きな影響を与えている。しかし、分散避難の実態を調査したところ、自治体レベルではそれほど対応が進んでいないことが明らかになった一方で、住民は快適な避難所への避難を望んでいることが明らかになった。このようなギャップを解消するためにどのような解決策があるのかを検討する必要があるだろう。 防災教育が災害自己効力感を高める効果の検証については、一度限りや短期的な防災教育では、災害自己効力感を高めることが困難であることが確認された。このため、実際に防災教育を担当する教職員を対象とした防災教育や災害自己効力感の理解と普及を目的とした実践的活動を行った。その結果、災害自己効力感という概念に興味を持ってくれる教員もいた。また、学校の防災教育の中で災害自己効力感について測定してくれる学校も確認できた。今後も、このような実践的な活動や防災教育を行っている学校との連携も含めて研究を進めていきたい。 今年度実施したシナリオ実験では、対策行動についてのポジティブ情報による説得効果は大きくない可能性が示された。このため、どのような情報を提示すれば防災行動意図が高まるのかといった心理的要因の検討を、先行研究も元にもう一度整理し直し、シナリオ実験によって実証する必要がある。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大により調査旅費や研究発表旅費が支出できなかったため、残金は次年度に繰越し、シナリオ実験や調査費用に充てる。
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