2023 Fiscal Year Research-status Report
幾何的漸化式に基づく量子トポロジーと弦の場の量子構造の数理の究明
Project/Area Number |
20K03931
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
藤 博之 大阪工業大学, 情報科学部, 教授 (50391719)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋上 和弘 九州大学, 数理学研究院, 准教授 (60262151)
村上 斉 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (70192771)
真鍋 征秀 大阪公立大学, 数学研究所, 特別研究員 (20965222)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 位相的漸化式 / 幾何学的漸化式 / Jackiw-Teitelboim重力 / Mirzakhaniの漸化式 / 弦の場の理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
幾何学的漸化式は,位相的漸化式の量子トポロジーによる解釈の中から提唱された,リーマン面のモジュライ空間の構造を調べる手法であり,交差数やWeil-Petersson体積をはじめとした様々な不変量が普遍的に満たす構造が見出された.本研究課題は,2次元量子重力理論や非臨界弦の場の理論を基に幾何学的漸化式の物理的側面に関する理解を深めることを目的としている. 2次元重力理論に関する研究では,リーマン面上の有理微分形式のモジュライ空間に適切な測度を導入して定められるMasur-Veech(MV)体積が満たす幾何学的漸化式の物理的解釈を与える問題に取り組んだ.Mirzakhaniによる双曲構造を導入したリーマン面を基にした再定式化によると,MV体積は境界付き双曲リーマン面内部に巻き付いた閉測地線の数え上げ問題として再解釈される.この再定式化を2次元重力理論において解釈すると,Jackiew-Teitelboim(JT)重力理論の重力場に結合した無質量スカラー粒子の世界線の数え上げ問題となることが予想される.この点を示すため,MV体積(の多項式拡張)が満たす幾何学的漸化式と,JT重力理論の重力場に結合した無質量スカラー粒子の分配関数を比較したところ,両者の一致が確認され,我々の物理的解釈に関する予想が示された.さらに,本年度の研究ではスカラー粒子による解釈を基に,全ての長さが一定に保った測地線の数え上げ問題への拡張などが定められることも提唱した. 非臨界弦の場の理論に関する研究では,格子重力理論である動的単体分割(DT)を基にした非臨界弦の場の理論のSchwinger-Dyson方程式の解析を行った.特に,(2,2m-1)極小模型で表される物質場が結合した重力理論に対するDT模型のSchwinger-Dyson方程式が,位相的漸化式に書き換えられることを証明した.(現在論文執筆中.)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は主に,弦の場の理論に関する研究に取り組み,様々な格子重力理論に対して位相的漸化式との関係を明らかにした. 動的単体分割(DT)による2次元格子重力理論は,2次元時空の多様体であるリーマン面を一定サイズの正多角形を貼り合わせてポリゴンとしてリーマン面を近似することにより定式化される場の理論である.この近似された模型のスケーリング極限を取ることにより,物質場が結合した2次元量子重力の記述が可能となる.こうした離散的な手法に基づいて定式化される量子重力理論に対するハミルトン形式の量子化が見出され,非臨界弦の場の理論と呼ばれている. 本年度の研究では,この弦の場の理論の定式化に基づいて,境界をもつ2次元時空の分配関数に対するSchwinger-Dyson方程式を解析し,この方程式が行列模型の研究の中から見出された位相的漸化式の形に書き換えられることを調べた.この結果,(2,2m-1)極小模型で表される物質場が結合した2次元量子重力に対して,位相的漸化式の基本データを書き出すことに成功した.これは,90年代に物理学的考察から,行列模型のスケーリング極限として非臨界弦理論が得られると考えられていた結果と合致するものであり,この事実を位相的漸化式を用いてより明確に証明したものと位置付けられる研究である. 非臨界弦の場の理論の手法を応用して,さらに時空多様体に因果的構造を導入した動的単体分割(CDT)に基づいて考えられる2次元量子重力モデルについても考察を進めた.このモデルが導入している機構は,量子重力理論が高次元において経路積分による解析が困難となる問題を解決すると期待されるものであり,数理的考察があまり進んでいない状況にある.2023年度の研究では,CDTによる2次元量子重力模型のSchwinger-Dyon方程式もまた位相的漸化式として表現できることを発見した.
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は本研究課題の最終年度にあたるため,まずは2022年度に発表したMasur-Veech体積と幾何学的漸化式に関する研究論文を出版することが挙げられる.さらに,2023年度に解析を続けた非臨界弦の場の理論と位相的漸化式の関係に関する論文を執筆し,発表する予定である. さらに,本研究課題の発展の方向性として,(1)CDT模型の異なるクラスの拘束条件をかけたモデルに対する分配関数の解析と(2)複数の2次元非臨界弦の場を組み合わせて作られる高次元モデルの解析が挙げられる. (1)の方向については,近年,CDT模型に基づいて提唱されたbaby universesが融合することで,宇宙の加速膨張宇宙を説明できるモデル(加速膨張モデル)に対するSchwinger-Dyson方程式の解析に取り組む.従来型のCDT模型と加速膨張モデルとの違いは真空条件にあり,加速膨張モデルは真空からゼロサイズの空間の生成を許すことになる.この真空に対するSchwinger-Dyson方程式はこれまでのCDTの研究では解析が行われていなかったものであり,今後のこの研究分野の発展に非常に有用な結果がもたらされると期待される. (2)の方向については,2次元非臨界弦を複数個組み合わせたモデルのSchwinger-Dyson方程式から得られる位相的漸化式の解析と,その背後にあるVirasoro拘束条件の表現を明確にする問題に取り組む.位相的漸化式の研究において,複数のモデルの組み合わせはこれまであまり論じられてこなかった問題であるが,弦理論を考える上では自然な拡張モデルとなっている.先行研究においては,弦の場の理論のハミルトニアンを構成するための大域的対称性としてJordan代数の構造の出現が示唆されており,位相的漸化式から得られるVirasoro拘束条件の観点からその表現論的意味を探る予定である.
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Causes of Carryover |
本研究課題が開始した2020年度から2年間はコロナのため出張などの経費が支出できず,また,半導体不足に伴うPCの納入が大幅に遅れることが発生したため,経費の使用が順調にできなかったことが主な理由である. 最終年度の2024年度は,早期にPCの購入を実施することで残額の大半を使用し,残りは,研究成果発表のための旅費を主に使用する予定である.
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Research Products
(5 results)