2020 Fiscal Year Research-status Report
ブラックホールの情報喪失問題解決に向けたホーキング輻射の多角的解析
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20K03946
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
森田 健 静岡大学, 理学部, 講師 (40456752)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ブラックホール / 量子重力 / 超弦理論 / カオス / 量子力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブラックホールは量子論的に熱的な性質を持つ事が予言さている. これはブラックホール熱力学と呼ばれ, ブラックホールの重要な性質の1つであると考えられている. 特に興味深いことにブラックホールは「負の比熱」を持つ事が予言されている. 比熱が負と言う事は温度が高ければ高いほどエネルギーが下がる. これは我々の身近な物質とは異なる非常に奇妙な性質である. 通常, 熱力学的な性質の背景には, ミクロな物質の性質がある. そのためブラックホールの持つ負の比熱は, 重力のミクロな性質(量子重力)を反映したものだと考えられる. 一方, 量子重力の有力な候補として超弦理論がある. そこで超弦理論を用いて, ブラックホールの負の比熱を説明できないかという試みが長年なされてきた. そのような試みの1つに, Dブレーンを用いたものがある. Dブレーンとは, 弦の凝縮状態の一種であり, Dブレーンをブラックホールのミクロな構成要素とみなし, 多数のDブレーンの熱平衡状態として, ブラックホール熱力学を再現するというものである. 本研究では, このアイデアに基づき, ある種の極限状態におけるDブレーンの熱力学を調べた. そしてDブレーンが負の比熱を自然に持つ事を示し,その比熱を計算で得る事に成功した. ただし, 本研究で考えたDブレーンの極限状態は, 現実世界のブラックホールとは直接関係しない状態である, そのため, ブラックホールの負の比熱の正体を解明できたわけではないが, その解明に向けた重要な一歩であると考えられる. また別の研究として, ブラックホールがどのように周囲に熱を発するかの研究を行い, 量子カオスが重要な役割を果たしている事を示唆する結果を得た. これもまだ確証の段階では無いが, ブラックホールの熱的な性質を理解する上で重要な役割を果たすのではないかと期待している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では, 一般相対性理論, 量子力学, 超弦理論など様々なアプローチでブラックホールの量子論的な性質を研究するものである. そのため幾つかの研究を今年度行い, 予想以上の結果が得られたものもあれば, うまくいかなかったものもあった. うまくいかなかったものとしては, ブラックホール生成過程におけるHawking輻射の再評価がある. これは重力崩壊により形成されたブラックホールのHawking輻射がこれまで過小評価されているのではないかという予測に基づき, Hawking輻射の寄与を再評価したものである. しかし, 当初の予測とは異なり, ブラックホールの生成過程においてもHawking輻射の寄与は, それほど大きくなさそうな事がわかった. 一方, 予想よりも進展があったものとしては, 先に「研究実績」で触れたブラックホール熱力学の研究がある. 特にブラックホールの負の比熱と関連するかもしれない, 負の比熱状態を超弦理論において得られた事は大きな進展となった. またブラックホールの発熱における, 量子カオスとの関係においても興味深い進展が見られた. 量子カオスとブラックホールの関係はこれまで他の研究においても示唆されていたものだが, 本研究ではかなり基本的なところで, 両者が関係している事を明瞭にするもので, 今後の進展が期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度進展があったブラックホール熱力学の研究を引き続き発展させていく. 特に負の比熱に関してはDブレーンの熱力学を評価する事で, 計算上は負の比熱が得られたが, どのような機構で負の比熱になったのか定性的な理解ができていない. その問題について調べていきたい. またブラックホールと量子カオスの関係についても, より基礎的な理解ができないか深く考えていきたい. また関連した超弦理論や量子力学の研究を行っていく予定である.
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Causes of Carryover |
本年度は新型コロナウイルス感染症の影響のため, 研究会や研究打合せがほぼ全てオンラインになった.そのため旅費の使用がなかった. しかし, 研究をより促進するためにはやはり対面での研究会への参加や, 研究打合せの実施が不可欠であるため, 次年度は可能な限り, 行っていきたい. またテレワークやオンラインでの研究打合せのため, 様々な設備が必要になった. そのため次年度もこれに関する物品費が増える可能性がある. 他に現在いくつかの数値解析を行う予定があり, 場合によっては外部の大型計算機を借りる費用が発生する可能性がある.
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