2020 Fiscal Year Research-status Report
Control of Charge Arrangement and Electronic Phase Transition in Molecular Crystals
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20K05448
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
矢持 秀起 京都大学, 理学研究科, 教授 (20182660)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大塚 晃弘 京都大学, 理学研究科, 准教授 (90233171)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 電荷秩序 / 分子性結晶 / 電子相転移 / 導電性 / 磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
異なる置換基を持つTTF誘導体を周期的に結晶に組込み、TTF核について電荷秩序状態を構築することを試みてきた。以前より検討していた(TMTTF)3[TTF(CO2)4H2]は3分子のTMTTTと[TTF(CO2)4H2]が交互に積層した結晶構造を持ち、室温にて+1, 0, +1, 0の電荷配置を持つ絶縁体であった。本研究では-2価イオンである[TTF(CO2)4H2]を用いた錯体の更なる開拓を試み、今年度はTMTSFとの結晶性錯体を得ることに成功した。TMTSFはTMTTFに比べてドナー性が弱く、錯体中で[TTF(CO2)4H2](2-)中のTTF核と正の電荷を分配しあう可能性がある。今回得られた錯体は(TMTSF)3[TTF(CO2)4H2]の組成を持ち、上記TMTTF錯体と同様に3分子のTMTSTと[TTF(CO2)4H2]が交互に積層した構造を持っていた。1 Scm-1を超える室温伝導度を持つ半導体であった。従来多用されてきた結晶構造解析から得られる各成分分子の分子内結合距離から各分子上の電荷を見積もる方法を適用しようとしたが、充分な精度を得る事が出来ず、現段階では結晶内での電荷配置は明らかではない。さらに、錯体作製に使用する溶媒の純度によって、室温での構造がほぼ同等でありながら、結晶構造の温度変化が異なる試料が得られるなど、再現性の向上と精度の良い解析を行う必要がある。 強力な還元剤を用いた有機陰イオン(ラジカル)を発生させる事による錯体開拓も行い、フッ素置換金属フタロシアニンやシアノ置換ヘキサアザトリフェニレンの新規な塩を得た。同時に、比較的還元されやすいTCNQ誘導体についても嵩高い陽イオンとの錯体を作製した。 さらに、本研究で使用する化合物のひとつであるBOを用いた共同研究によって、金属的導電挙動を示す温度領域で単分子磁石としても挙動する錯体が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主課題である異種分子の周期的配列構造の構築による電荷秩序状態の構築については、結晶性錯体を得ることが最も重要な課題である。今年度は[TTF(CO2)4H2](2-)を第1の成分とし、第2の成分として主にTTF誘導体を用いた錯体開拓を行った。その中で、研究概要欄に記載したTMTSFとの新規結晶性錯体が得られた。これまでに得られてきた類似物質に比べ桁違いに高い導電率を示し、均一電荷に近い電荷秩序状態が実現しているとの期待が持たれる。既知類似物質と似た結晶構造を持ちながら異なる物性を持つ錯体が得られたことは、新規物質開拓の観点から興味深い進展が見られたと判断される。一方で、上記物質についてはさらなる検討が必要であり、研究期間を考えるとおおむね順調な進展であると評価した。 強力な還元剤を用いる錯体の開拓においても、有機陰イオンラジカルの不対電子を含む結晶内での磁気的な相互作用の検討が可能な新規物質が得られ、順調な進展が見られた。 さらに、主課題で用いる化合物のひとつ、BOは絶縁体化し難い錯体を与える性質が強いことが知られていたが、これを用いた共同研究から上述の金属的挙動と単分子磁石の挙動を同時に示す稀有な物質が得られたことは、研究課題としては副産物であるが分子性物質の科学に新展開を与える成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も[TTF(CO2)4H2](2-)などの負電荷を持つ置換基を組み込んだ電子供与体を第1の成分として電荷秩序状態を持つ物質の開拓・解析を継続する。特に上述の(TMTSF)3[TTF(CO2)4H2]は均一電荷に近い電荷秩序状態が実現していると推測され、再現性の良い結果を得るための実験を継続する。 強力な還元剤を用いた錯体の開拓についても継続して新規物質の開拓と解析を続ける。
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Causes of Carryover |
配当額が申請額から大きく削減されたことにより、当初購入予定であった量子化学計算用PCの購入を中止し、ソフトウェアも無償版を利用することにより、経費を節減した。一方で、コロナウイルス感染症対策のため、化学合成を主とする実験の実行に支障が生じ、化学薬品・器具の購入を先送りせざるを得なくなった。 初年度からの繰越し予算は2年度目以降の薬品・器具購入等に充て、本課題の研究を推進する。
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