2021 Fiscal Year Research-status Report
有機溶存物質のエアロミセル化・水マトリックス支援ソフトイオン化による直接質量分析
Project/Area Number |
20K05552
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
古谷 浩志 大阪大学, 科学機器リノベーション・工作支援センター, 准教授 (40536512)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
豊田 岐聡 大阪大学, 理学研究科, 教授 (80283828)
間 久直 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (70437375)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エアロミセル / 単一微粒子質量分析 / 液体試料直接質量分析 / ソフトイオン化 |
Outline of Annual Research Achievements |
質量分析計に液体試料を全量・直接導入する画期的な新手法である「液体試料のエアロミセル化法」に加えて、エアロミセル中に多量に含まれる水分子を支援マトリックスとして用いることで、液体試料中の有機物質を壊すことなくソフトにイオン化させる新しい質量分析手法である「エアロミセル-水マトリックス支援中赤外レーザー脱離・ソフトイオン化」を実現するための装置開発ならびに実験を進めた。 水分子の光吸収波長である中赤外光(波長2700~3000 nm)を発振する中赤外パルスレーザーを既存の単一微粒子質量分析計に組み込み、同質量分析計に付属する紫外パルスレーザーと共に、同質量分析計に導入したエアロミセルに対して同期してパルスレーザー光を照射できるように改造を行い、エアロミセル1つ1つの質量分析を試みた。 中赤外パルスレーザー光単独での照射では、エアロミセルから有意な質量スペクトルを得ることはできなかったが、紫外パルスレーザー光と中赤外パルスレーザーとの同時照射においては質量スペクトルが得られるだけでなく、中赤外パルスレーザーの同時照射によって質量スペクトル中のイオンピークの強度が増強されることが示された。 中赤外パルスレーザー光は、赤外線ビューワーでも可視化できないため光軸の調整等が非常に難しく、設計通りにエアロミセルに照射されているか確認等が非常に難しい。しかし、本結果はエアロミセルに中赤外パルスレーザー光が照射されているものの、レーザー脱離・イオン化を誘起させるためには、フルエンス(単位面積あたりのレーザー光強度)が不十分であることを示唆するものだった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
有機溶存物質を含む液体試料をエアロミセル化させ単一微粒子質量分析計に直接導入し、中赤外パルスレーザー光によって水マトリックス支援ソフトイオン化を行うための質量分析装置を、既存の単一微粒子質量分析計を改造することで開発した。またその単一微粒子質量分析計を用いて実際にエアロミセル1つ1つを中赤外パルスレーザー光照射によってレーザー脱離・イオン化させる実験を行った。 これらの研究進捗によって、分析技術としては大きく進歩し、本研究のゴールである「有機溶存物質のエアロミセル化・水マトリックス支援ソフトイオン化による直接質量分析」を行う素地は確立された。 しかし、開発した質量分析計を用いて様々な実験条件で実験を行ったものの、紫外パルスレーザー光と中赤外パルスレーザー光の同時照射では、エアロミセルから1つ1つ質量スペクトルが得られ、また中赤外パルスレーザー光の照射効果も見られものの、中赤外パルスレーザー光の単独照射では有意な質量スペクトルが得られていない。この点が、当初予定よりやや遅れていると判断した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
中赤外パルスレーザー光と紫外パルスレーザー光の同時照射実験の結果から、中赤外パルスレーザー光はエアロミセル1つ1つに意図した通りに照射されているが、フルエンス(単位面積あたりのレーザー光強度)が、現在の中赤外パルスレーザーならびに集光光学系では不十分であることが示された。フルエンスを高めるには、パルスレーザー光強度を高めるか、集光した際のレーザースポット径を小さくするかの2つの方策がある。中赤外パルスレーザーは最大パワーで運用しており、これ以上のレーザー光出力を得ることはできないので、集光光学系を改良し後者の「レーザースポット径を小さくする」ことを進める。レーザースポット径を小さくするには、高開口数(高NA)の条件でレーザー光を集光する必要があり、ビームエキスパンダーによってパルスレーザー光のビーム径を一旦拡大し、その上でレンズによって集光するようにする。また、従来使ってきた紫外パルスレーザーのパルス発振シーケンスと異なる中赤外パルスレーザーのため、エアロミセルの到着に同期したパルスレーザー発振を行うタイミング調整回路の改良も並行して進める。
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Causes of Carryover |
中赤外パルスレーザーを、既存の単一微粒子質量分析計に組み込むための架台製作・装置改良の費用が、当初予定よりも低く抑えられたため残余金が生じた。 しかし、実験から中赤外パルスレーザー光のフルエンスを高める必要があることが判明し、これを実現するため、新たにレーザー集光光学系を見直し、ビームエキスパンダーなどの導入が必要であることなどが判明した。加えて中赤外パルスレーザーのパルスレーザー発振のタイミングをより精密に制御するには、新たな制御回路が必要であることも判明した。残余金はこれらの課題解決に充てる。
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