2020 Fiscal Year Research-status Report
Environmental pollutant degradation system using dye-decolorizing peroxidase
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20K05700
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
内田 毅 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (30343742)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 環境浄化 / 色素分解 / 酵素 / ヘム / 過酸化水素 / 大腸菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
DyP (Dye-decolorizing peroxidase) はヘムを含むペルオキシダーゼという酵素タンパク質の一種で、過酸化水素を利用し、アントラキノン系の色素を分解するヘム酵素であることから、環境浄化酵素としての利用が期待されている。しかし、至適pHが4と低いことが実用化へのハードルとなっている。そこで、アミノ酸置換により至適pHの中性への変換を試みた。多くのヘム酵素では、酵素反応の至適pHとヘム近傍に存在するアミノ酸残基のpKaが関連していることが知られている。そのため、VcDyPの至適pHが4であるのは、アスパラギン酸144 (Asp144)が酸-塩基触媒として機能しているためと予想された。そこで、VcDyPのAsp144をpKaが中性のヒスチジンに置換することにより、至適pHを変化させることを試みた。しかし、酵素活性をほとんど消失した。モデル構造の解析から、挿入したヒスチジンが活性部位に近すぎるのが原因と考えられたため、少し離れた位置にヒスチジンを導入したところ、活性が回復した。しかし、至適pHは4のままであった。このことから、DyPの至適pHはヘム近傍のアミノ酸残基には依存せず、多くのヘム酵素とは機構が異なることがわかった。 DyPの活性部位は過酸化水素が反応するヘムではなく、タンパク質表面のチロシンであることから、ヘムからこのチロシンへのラジカル移動経路をpathway analysisという手法を用い、推測した。その結果、ラジカル移動経路にあるArg112, Asp138, Met139, Thr140を変異し、色素分解活性のpH依存性を調べた。その結果、Asp138をバリンまたはグリシンに置換したD138V, D138G変異体で色素分解活性の至適pHが6.5になった。このれにより、中性付近で色素を分解できる酵素の作成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では1. 至適pHの中性への変換を、2. 基質結合部位の改変による基質の拡張、3. 無機材料への固定化による安定性の向上、4. DyPを強制発現させた微生物による環境浄化、という手順により、アントラキノン系の合成色素の分解に加え、構造が類似したダイオキシンや抗生物質などの排水中の有害物質を安価で効率的に分解する環境浄化システムをタンパク質レベルと微生物レベルの両面のアプローチから構築することを目的としていた。昨年度は採択初年度ということで、「1. 至適pHの中性への変換」を試みた。立体構造やシミュレーションを組み合わせ、効率的に変異体を作成した結果、中性において天然型の10倍の触媒効率を持つ変異体の作成に成功した。以上の結果、計画通り順調に研究は進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は当初計画の「2. 基質結合部位の改変による基質の拡張」と「4. DyPを強制発現させた微生物による環境浄化」に取り組む。大腸菌の基質の取り込み効率を考慮すると細胞質より、ペリプラズム空間で反応させる方が効率的だと考えられる。そこで、DyPにシグナル配列を付加し、ペリプラズム空間で発現させる。しかし、この場合、発現したDyPが、活性に必須であるヘムを効果的に取り込むことができるかという問題点がある。そのための解決法として、1. ヘム合成酵素を共発現する、2. ヘムを共有結合により取り込ませる、という解決法を試みる。2はDyPとヘムの共有結合を導入するか、シトクロムcのように既にヘムとタンパク質が共有結合をもつタンパク質の利用を検討する。ヘモグロビンを初め、多くのヘム含有タンパク質はヘムを配位結合により取り込むため、ヘムの供給が少ないペリプラズム空間では、ヘムを含む状態で発現しない可能性が高い。一方、シトクロムcはCcmというタンパク質と共発現するとペリプラズム空間でチオエーテル結合によりヘム結合する。シトクロムc自体には色素分解活性はないが、カルジオリピンなどの脂質と相互作用すると部分的に変性した状態になり、本来の活性である電子伝達活性を失うが、その結果、酸化活性が生じることが知られる。タンパク質の表面に色素分解の活性中心となるチロシンを導入し、pathway analysisを用い、ラジカルが移動するように変異を導入すれば色素分解も可能であると期待できる。このように複数のアプローチにより、大腸菌での色素分解を試みる。
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Causes of Carryover |
【理由】研究は順調に遂行されており、予算も適切に消費しているが、基金であることから年度末に不必要に消費せず、次年度に繰り越したためである。
【使用計画】次年度使用額が計上されているが、次年度の交付額と合わせ、大腸菌培養用の試薬費の一部として使用する予定である。
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