2022 Fiscal Year Research-status Report
Large-scale X-ray fluorescence analysis on plant specimens and construction of information base on element accumulation of plants
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20K05765
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
水野 隆文 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (50346003)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡部 敏裕 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (60360939)
橋本 篤 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (40242937)
村井 良徳 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (30581847)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 植物標本 / 蛍光X線分析(XRF) / 元素集積データベース / マンガン超集積性 / 重金属超集積性植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は,①未報告の金属超集積性植物の探索,②植物体内における各種元素の相関性に関する分析,を実施した。 ①:約1600点の標本のうち,採取場所の異なる3標本で乾燥重量当たり1%を超えるマンガン濃度が確認され,それがいずれもモチノキ科モチノキ属であった。この結果を受け,三重県総合博物館を中心に各地のモチノキ属21種類,合計446標本を改めて測定した結果,6種類のモチノキ属植物(樹木)において合計32点のマンガン超集積性を持つ標本が確認された。このうち,マンガン超集積性を示す標本の割合が10%を超えたものが3種類(ソヨゴ,ハイイヌツゲ,ヒメモチ)存在した。またこれらの植物のマンガン集積と亜鉛の集積には高い性の相関性が認められ,また本植物中のリンの濃度は他の植物に比べ半分程度であった。 ②:解析した植物標本について,採取された場所別および土壌タイプ別に分類し,それぞれのグループにおける元素集積傾向を確認した。日本に多い黒ボク土については2021年度に高いイオウ集積傾向を確認していたが,さらに木本,草本の区別なくイオウとリンの集積に相関性があることを確認した。加えて,S, P以外に6元素を加えた8元素の相関について解析した結果,(1)植物にはS-P間だけではなく,カリウムとリンの濃度にも高い相関性を確認(2)土壌中のカリウムとリンが非常に少ない蛇紋岩土壌では、植物体内におけるリンは一般土壌の植物の半分程度まで減少するが,カリウムは7割以上の濃度を維持(3)リンが少ない蛇紋岩植物では,カリウムとリンの相関性が統計上失われる代わりに,カリウムとイオウの相関性が強く表れること,などを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
植物における各種元素間の集積相関、特にカリウムとリンの相関と,リンの獲得が抑制される土壌条件でのカリウムとイオウの関係性の発見については,これまでの植物栄養学上において指摘されたことがない。現時点ではそのメカニズムの解明には至っていないが,細胞内に最も多く存在する陽イオン(カチオン)であるカリウムに対し,主要な陰イオン(アニオンである)リン酸イオンと硫酸イオンが,おそらく硝酸イオンとともに電気的バランスを取っていることを強く示唆していると考えられる。この「植物体内の元素量における電気的バランスの重要性」を示唆する結果は,今後の植物栄養学においてより研究を推進すべきものであり,本学問分野に大きなインパクトを与えることになる発見であると考えている。 一方,本課題の申請時に目標としていた新しい金属超集積性植物を発見したことは,一つの大きな課題を達成したことを意味し,構築している植物の元素集積データベースの有用性を証明できたと考えられる。特に今年度発見したモチノキ科モチノキ属のマンガン集積性については,これまで当研究室で進めてきたウコギ科ウコギ属のコシアブラのマンガン集積パターンと大きく異なっていた。よって,今後両者のマンガン獲得機構を比較調査することにより,植物におけるマンガンの超集積性メカニズムを解明できると考えられ,植物のマンガン利用や蓄積に関する知見を大きく発展させる契機となると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
申請期間の最終年度となる2023年度は,オンラインでの情報公開を前提としたデータベースの拡充を第一目標とする。具体的には,これまでランダムに借用を受けていた植物標本を,草本植物の主要グループ(アブラナ科,キク科,シソ科,セリ科など)について集中的に解析し,これまで漠然と知られていたこれらグループの元素集積蛍光(アブラナ科の高イオウ集積性,キク科の高カリウム性,イネ科の高ケイ素集積性等)を統計的データを元に明確化することを目指す。また2023年度に発見したモチノキ科モチノキ属のマンガン超集積性について,三重県などに自生する樹木の調査を実施し,樹齢や樹高とマンガン集積量との関係性の調査や,自生土壌に関する情報収集を実施する。その上で,得られたデータの論文としての発表,学会発表のほか,他の研究者が利用できるよう,データベースの開示に向けたウェブ上のプラットフォーム構築を行う予定である。
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Causes of Carryover |
(次年度使用額が生じた理由):発表予定であった蛇紋岩植生学会が2023年度へと再延期になったため。また,投稿料が30万円程度予定していた2022年に投稿した論文が,2023年度に再投稿することになったため。 (使用計画):現地調査および成果発表に使用する予定である。
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Research Products
(7 results)