2020 Fiscal Year Research-status Report
雌マウスにおける雄型性行動発現に対する抑制神経回路の解明
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20K06471
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
松本 高広 徳島大学, 先端研究推進センター, 准教授 (70447374)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 性分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類の雌雄間には種々の差異が存在し、その性差は特に生殖に関わる行動パターンに顕著に現れる。雄の性行動は能動的であり、齧歯類の雄は発情雌に対し馬乗りとなるマウント行動、挿入行動を繰り返し、やがて射精行動に至る。一連の雄型性行動は、各々に特徴的な行動パターンとして現れるため、容易に区別することができる。一方、発情雌は雄のマウントに反応し、反射的に脊柱を湾曲させるロードシス行動を示し、雄を受け入れる。このように明確に異なる性行動パターンは、それぞれ雌雄の性に厳格に固定されている。そのため、性成熟した雌に、たとえ多量のアンドロゲンを投与してもある程度のマウント発現は観察されるが雄のレベルに比べ極めて低い。また、射精行動パターンに至っては決して観察されることはない。これは、中枢神経系に発達した性中枢の神経回路に構造的・機能的な雌雄差が形成されていることを反映している。 本研究では、雌性が雄型性行動を示さない要因は、雌脳に発達する雄性抑制神経回路に起因することを検証する。そのため、DREDD法やウイルストレーサー法を用いて雌脳の外側傍巨大細胞網様核を起点とした神経回路の異性行動制御における機能と構造を明確にする。この目的を達成するため、第一に、性成熟後の雌マウスの外側傍巨大細胞網様核を構成する3つの亜核群において、神経細胞体のみを選択的に破壊し、雄型性行動発現への効果を調べた。その結果、外側傍巨大細胞網様核の中間亜核の神経破壊を施された雌ラットおよび雌マウスでは、雌型の外性器を有するにも関わらず、挿入パターンの発現が亢進し、33%の雌個体が射精パターンを示すようになることが判明した。この結果から、雌が射精行動パターンに至る雄型性行動を示すことができない理由として、外側傍巨大細胞網様核の中間亜核を起点とした抑制神経機構が雌脳に発達していることに起因することが明確になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
外側傍巨大細胞網様核は吻側から尾側方向に細長く、その細胞構築および投射パターンから、吻側亜核、中間亜核、尾側亜核の3つの亜核に分類される。そこで第一に、外側傍巨大細胞網様核の亜核群の機能を調べるため、成体の雌マウスに脳定位固定装置下にて各亜核に神経細胞体の選択的破壊を誘導するイボテン酸の微量注入手術を施し、テストステロン投与後に1週間毎に計3回の雄型性行動テストを行なった。その結果、吻側亜核および尾側亜核の神経破壊による雄型性行動への影響は確認されなかったものの、中間亜核の神経破壊を施された雌マウスでは、マウント発現が雄レベルまで亢進し、挿入パターンの発現も増加することが明らかとなった。さらに、33%の雌の個体で射精パターンの発現が観察されることを見出した。この結果から、雌の脳内にも射精、挿入、マウントの全ての行動発現プログラムが潜在していることが明らかとなった。さらに、この雄型性行動発現機構に対し外側傍巨大細胞網様核の中間亜核が強く抑制をかけていることが示唆された。次に、免疫組織学的手法により、成体の雌雄マウスの延髄領域において、セロトニン陽性細胞が外側傍巨大細胞網様核に豊富に局在していることを確認した。亜核群におけるセロトニン陽性細胞の局在パターンに差異は確認されなかった。そこで、外側傍巨大細胞網様核の中間亜核の神経伝達に関わる神経伝達物質を同定するため、セロトニン神経を選択的に破壊する5,7-dihydroxytryptamine(5,7-DHT)を外側傍巨大細胞網様核の中間亜核に微量注入した効果を現在検証している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究により外側傍巨大細胞網様核を構成する亜核群の内、中間亜核が雌脳における異性行動発現に対して抑制機能を担っていることが明確となった。現在の脳の性分化の概念は、雌脳をデフォルトとして、周生期にアンドロゲンが作用すると、能動的に雌脳から雄脳が作り出されると考えられている(雄性化)。一方、脳の雌性化は受動的プロセスであり、周生期にアンドロゲンが作用しないと基本型である雌脳としてそのまま発達するというモデルである。これに対し、雌脳における射精を含む雄性行動パターン発現能とその抑制神経回路が存在することを示した本研究結果を考慮すると、雌脳への性分化の過程は、抑制神経回路を積極的に発達させる能動的な脱雄性化プロセスであることを新たに提唱するものである。今後は、現在進行中であるセロトニン神経伝達に焦点を当てた解析を進めることで、どのような神経投射や神経伝達物質を介して神経回路を形成しているかを明らかにする予定である。具体的には、作動薬(CNO)投与により神経活動を制御するDREDD法を用いて、中間亜核の神経活動を抑制し、雄型性行動発現に対する効果を調べる。神経細胞に特異性を示すPrp-Cre雌マウスを用いて、hM4Diを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)を吻側亜核、中間亜核、尾側亜核に脳定位固定装置下にて微量注入する。この場合、Cre依存的に発現するhM4Diは各亜核の神経細胞のみに発現し、且つ、CNO存在下で神経活動を抑制する。そこでAAV を微量注入した雌マウスにCNOとアンドロゲンを事前投与し、雄型性行動テストを実施する。次に、セロトニン神経の役割を検討するため、セロトニン神経に特異性を示すSERT-Creマウスを用いて、上述のDREDD法によりLPGi亜核のセロトニン神経活動を抑制した場合の効果を調べる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、当初、予定していた本研究成果の国内外の学会等がすべてキャンセルとなったため、次年度の使用額が生じた。翌年分として請求した研究費と合わせて物品費に使用する予定である。
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