2022 Fiscal Year Research-status Report
Establishing a method for estimating species numbers for each taxon in interstitial environment
Project/Area Number |
20K06780
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
柁原 宏 北海道大学, 理学研究院, 教授 (30360895)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
嶋田 大輔 北海道大学, 理学研究院, 研究院研究員 (30768445)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 間隙動物 / 紐形動物 / 扁形動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は海岸の砂の隙間に生息する微小動物の各高次分類群に特異的なバーコード領域のプライマーを設計し、ある地点から採集された環境DNAからその場所に当該分類群の動物が何種いるのかを推定できるような基盤を整備することであった。研究遂行の過程で、得られた種の分類学的研究を平行して行った結果、中国海洋大学との間で進めていた共同研究の結果が2022年に公表された。本論文中では間隙性ヒモムシ類のサザレヒモ属Ototyphlonemertesの6種が新種として原記載されている。これらは南シナ海の北部にある海南島や西沙諸島などから得られた48個体のサザレヒモ標本に基づいており、これらの標本からチトクロームc酸化酵素サブユニットI(COI)遺伝子35配列・16S rRNA遺伝子40配列・18S rRNA遺伝子42配列・28S rRNA遺伝子39配列の計156配列が決定された。これらに、既知のものを併せた計187個体由来の配列を用いて行った分子系統解析の結果、いくつかの主要な単系統群が見いだされ、それらのうち3つを本論文中で亜属と見なした。3亜属のうちの1つには新学名を提唱した。既公表の塩基配列情報に基づいた種判別分析の結果、サザレヒモ属には世界から現時点で101の生物学的実体(ほぼ「種」と同義)が存在することが推測された。種の学名がつけられているのはこのうち高々33種なので、少なくとも68種の未記載種が将来的な分類学的研究を俟っていることになる。これらのサザレヒモに関する世界的な分布状況を調べたところ、世界の海洋生物区を49に分けた場合、サザレヒモはこのうち18の生物区から知られており、このうち最も種数が多かったのはインド―ポリネシア生物区であり、22種だった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年3月時点で公開データベースに登録されている扁形動物のミトコンドリアゲノム配列は763件あるが、その94%が新皮類(条虫類・吸虫類・単生類などの寄生性扁形動物)のものであり、小鎖状類・多食形類・多岐腸類・棒腸類・三岐腸類の配列が若干数登録されているものの、その他の主要高次分類群(原有吻類・錐咽頭類・原順列類・フェカンピア類・原卵黄類・ボトリオプラーナ類)の配列は知られていない。石狩浜で得られた原順列類(担爪類)の小型渦虫は形態的特徴からNematoplana ciliovesiculae Tajika, 1979(タイプ産地:積丹町来岸)に似るが、生殖器の詳細な形態の情報やトポタイプ由来のバーコード配列情報が利用できないため、種小名の適用は保留する。このNematoplana sp.を20個体用いた抽出DNAから決定したミトコンドリアゲノムは、原順列類として初めての報告となる。遺伝子のアノテーションはMITOS2で行い、更にNCBIで核酸と蛋白質のBLAST検索によって精査した。扁形動物のミトコンドリアゲノムには13の蛋白質コード遺伝子・23のtRNA遺伝子・2つのrRNA遺伝子が存在する。先行研究ではこのうちatp8遺伝子が欠落すると言われており、実際にMITOS2を用いた自動アノテーションやBLAST検索によってはNematoplana sp.のミトコンドリアゲノム中にatp8遺伝子は検出されず、代わりに手動アノテーションに頼る必要があった。Nematoplana sp.のatp8は他の扁形動物で報告されているものと同様1つの膜貫通領域を持ち、N末端近くで疎水性、C末端近くで親水性のアミノ酸を持っていた。但し、これらのatp8が実際に転写・翻訳されて機能的なATP合成酵素F0サブユニットとしての役割を果たしているのかどうかは将来の検証を俟つ必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
原順列類を構成する2つの高次分類群である担爪類と担石類のうち、担爪類のミトコンドリアゲノムを決定したので、今後は担石類のものを決定することを目指す。得られた配列のうち、チトクロームc酸化酵素サブユニットI遺伝子や16S rRNA遺伝子のような、いわゆるバーコード配列として利用することが期待できる遺伝子について配列のアラインメントを行い、環境DNAから増幅が見込めそうな200~300塩基の領域を探索する。また、担爪類のNematoplana sp.からは6420塩基のリボソームDNAタンデムリピートの単位が決定されているので、同様の配列を担石類からも決定出来れば、例えば28S rRNA遺伝子のD1-D2可変領域や、内部転写スペーサー(ITS)領域などにもバーコード配列的な箇所を見つけることが可能かもしれない。同時に、石狩浜に生息する原順列類の分類学的研究を進め、将来の環境DNAパイロット研究の際の、いわば「答え合わせ」が可能な基盤を整備しておく必要もある。というのも、あらかじめ何が生息しているのかを把握しておかなければ、環境DNAで検出される実体が何なのかが分からないからである。妥当性の高い種の学名の適用のためにはトポタイプ由来のバーコード配列が必要となる場合がある。北海道から知られている約20種の原順列類のうち石狩浜がタイプ産地であるのは2種(Archotoplana yamadai Tajika, 1983・Zygotoplana ezoensis Tajika, 1983)なので、他の石狩浜産原順列類に既知種の学名をあてはめる場合、注意が必要となる場合がある。
|
Causes of Carryover |
コロナウイルスの流行に伴って2020年度・2021年度の研究計画が後ろ倒しになった結果、次年度使用額が生じた。担石類のミトコンドリアゲノム配列決定と、担爪類に関する論文の掲載料支払いのために使用する予定。
|