2021 Fiscal Year Research-status Report
Pathological analysys and new therapeutic development for inflammatory bowel diseaseon on the molecular basis of fluctuant activity of zinc-requiring enzyme
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20K07056
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Research Institution | Kyoto Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
安井 裕之 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (20278443)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 亜鉛要求酵素 / 亜鉛不足による代謝変動 / 加齢による炎症応答変動 / 亜鉛輸送機構 / 腸アルカリホスファターゼ / 好中球浸潤 / メタロミクス解析 / バイオメタルマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請では、わが国における難治性疾患の1つである炎症性腸疾患(IBD)を取り上げ、特に潰瘍性大腸炎について調査している。 昨年度に続いて、加齢と共に変化する代謝機能が潰瘍性大腸炎の発症に関与する可能性を検討した。検証するための標的分子として、消化管の亜鉛要求酵素であるintestinal alkaline phosphatase(IAP)に注目した。加齢と共に消化管組織の亜鉛レベルが低下しIAP活性も低下するなら、上皮細胞の新陳代謝から細胞外に漏出されたATPや、腸内細菌から放出されたLPSがIAPによる分解を回避して管腔内を移動し、大腸に集積することが想定される。ATPやLPSは細胞膜上の受容体を介して作用する炎症惹起物質であり、大腸管腔内に蓄積すれば大腸上皮細胞に炎症が発生する。 実験方法として、9、40及び72週令のC57black/6Jマウスを用いて検証した。1週間の馴化後に2%のDSS水を1週間自由摂取させて潰瘍性大腸炎の実験モデル動物を作成した。 結果の概略を以下に記す。無処置群と比較してIBD群の大腸上皮の炎症は、9週令で顕著、40週令で軽微、72週令は不変で、加齢と共に元来から炎症が相当度みられた。大腸IAP活性は、無処置群の9-40週令から72週令で低下、IBD群では9-40週令で軽微に上昇、72週令で顕著に上昇した。一方で、血漿中ALP活性は、無処置群の9週令から40-72週令で低下、IBD群の9-40週令で顕著に低下、72週令で軽微に低下した。同様に、血漿中亜鉛濃度は、無処置群の9週令から40-72週令で低下し、IBD群の9-40週令で明確に低下、72週令で顕著に低下した。以上から、健常時の体内及び大腸内の亜鉛含量は加齢により低下し、体内亜鉛はIBD発症により更に消耗されるが、IBDを発症した大腸内の亜鉛含量は加齢によりむしろ増加することを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
無処置群と比較してDSS処置群(IBD群)で統計的な有意差が観測された項目を示す。 体重減少(9, 72週令)、DAIスコア増加(9, 72週令)、大腸長の短縮(9, 72週令)、大腸上皮組織の炎症(9, 72週令、無処置群の72週令でも炎症が相当度みられる)、IBD群の大腸IAP活性(9, 40週令で軽微な上昇、72週令で顕著な上昇)、無処置群の大腸IAP活性(9-40週令で同レベルだが72週令で低下)、IBD群の血漿中ALP活性の低下(9, 40週令で顕著、72週令で軽微)、IBD群の血漿中亜鉛濃度の低下(9, 40週令で明確、72週令で顕著)、無処置群の血漿中ALP活性の低下(9週令から40-72週令で低下)、無処置群の血漿中亜鉛濃度の低下(9週令から40-72週令で低下)、大腸中の亜鉛濃度(無処置群とIBD群で変化なし)。
結果を要約すると、DSS処置により惹起される潰瘍性大腸炎は9および72週令で顕著に発症した。これと連動する様に、血中の亜鉛濃度及びIAP活性は加齢とIBD発症に伴い低下し、無処置群の大腸IAP活性も加齢により低下した。しかしながら、IBD群の大腸IAP活性も加齢により更に低下すると予想されたが、結果は全くの逆であり、IBD発症時において大腸IAP活性は加齢により(すなわち炎症の増強に伴い)上昇した。 今年度は、この予想と反した実験結果の解析と追加検討を行ったため、予定していた研究計画にやや遅れを生じることとなった。 追加検討の結果を要約すると、IBD発症時においてのみ加齢により上昇する大腸IAP活性は、大腸組織由来ではなく、炎症を惹起した上皮細胞の内部に浸潤した白血球細胞由来である可能性を新たに見出した。加えて、IBD発症時の便中においては顕著なIAP活性が観測されることを見出し、IBD治療のバイオマーカーとしての可能性も検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
メタロミクス解析の結果から、当初に予想していた血中の亜鉛濃度の低下のみならず、大腸中及び血漿中のマンガンの低下、大腸中の銅の低下と血漿中の銅の上昇(血漿中の亜鉛低下を裏付けている)が、加齢やIBD発症に伴って顕著に変動することが明らかとなった。マンガンは亜鉛トランスポーターであるZip8やZip14を介して大腸組織内に取り込まれ、ZnT1を介して血中へと移行するため、亜鉛の大腸内輸送を反映している可能性が高い。また、銅は小腸内の亜鉛結合タンパク質であるメタロチオネインにより強く結合するため、亜鉛の血中移行が低下した状況下では銅の血中移行が上昇する。加えて、大腸内の銅も加齢やIBD発症に伴って低下している。一方、大腸中の亜鉛には変動が見られない。 これらの事実を総括すると、加齢の状況下でのIBD発症に伴い、組織外から亜鉛(亜鉛要求酵素のIAPを含めて)のみが大腸内へと供給された可能性が高い。 この機構を検証するため、次年度からはバイオメタルと白血球細胞とのクロストークを進め、さらに詳細な病態解析を実施して、白血球浸潤に連関した大腸中の亜鉛量およびIAP活性の上昇を見極めていく予定である。 加えて、上記の詳細な解析と作業仮説が実証された後になるが、メタロバランスの恒常性正常化を治療概念とした医薬品開発を志向して亜鉛錯体製剤の開発にも着手する。既に、経口投与後の大腸送達特性を付与した高分子配位子による亜鉛錯体として、分子量40万のポリγグルタミン酸-亜鉛錯体の合成と単離に成功している。経口治療薬候補として、本亜鉛錯体による治療効果実験を各週令のマウスで実施する予定である。
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Causes of Carryover |
得られた実験結果が、当初の予想された計画通りとはならなかったため、そのための追加の検討や解析を実施した。これらは予定の計画にはなかったものであるが、追加の検討の成果から次年度の研究の推進方策を、より合理的なモノで決定できることとなった。 次年度使用額が生じた理由は、上記の追加検討により他の実験を遂行する時間が不足したためであり、実施できなかった分の実験は次年度に遂行する予定である。
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