2020 Fiscal Year Research-status Report
多角的な視点による各サブタイプに基づいた食道アカラシアの病態解明
Project/Area Number |
20K08334
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
伊原 栄吉 九州大学, 医学研究院, 准教授 (80612390)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 食道アカラシア / 高解像度食道内圧検査 / アカラシアサブタイプ |
Outline of Annual Research Achievements |
[1] 【神経型nAChR刺激によるブタ下部食道括約筋 (LES) 弛緩反応の機序解明】: ブタLES輪走筋を用いて、選択的なアゴニストであるDMPP によるnAChR 刺激が引き起こすLES弛緩反応の機序を神経細胞-カハール の介在細胞(ICC)-平滑筋細胞ネットワークの観点から解明した。ブタLES輪走平滑筋は筋原性に安静時収縮を有する。安静時収縮の最中にnAChRの選択的アゴニストである30 μM DMPPを投与すると、21.4%の一過性弛緩反応を認めた。この一過性の弛緩反応はICCの機能を阻害するgap junction阻害剤であるcarbenoxoloneの前処置やカルシウム活性化クロライドチャネルであるアノクタミン1 の阻害剤CaCCinh-A01 を前処置することによって完全に消失した。また、P2プリン受容体の阻害剤であるsuraminで前処理を行うとこの弛緩反応は抑制された。このDMPPによるnACh受容体刺激によって引き起こされる一過性弛緩反応には過分極因子が関与するが、神経伝達物質として放出されたATPがICCを刺激し、ICC上のクロライドチャネルを活性化することでICCを過分極させ、gap junctionを介してLES弛緩反応が誘導されることを明らかとした。また、高解像度食道内圧検査を用いてヒトLES弛緩の機序の一端を解明した。 [2] 【食道アカラシア各サブタイプで認めるLES弛緩不全の機序解明】:食道アカラシア各サブタイプの筋層生検組織を用いて、平滑筋収縮を制御するミオシン軽鎖リン酸化レベルを評価した。食道アカラシアでコントロール患者と比較してミオシン軽鎖リン酸化レベルが有意に変化していることを見出したが、各サブタイプ間において有意な差は認められなかった。また、2020年度は、網羅的解析に必要なサンプル検体を確保し、DNAマイクロアレイを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の実施計画では、[1] 【神経型nAChR刺激によるブタ下部食道括約筋弛緩反応の機序解明】、[2] 【食道アカラシア各サブタイプで認める下部食道括約筋弛緩不全の機序解明】、[3] 【食道細菌叢解析及び数理モデル解析を用いた各サブタイプ別の病態解明】の3つであった。[1]については、実験と解析は終了し、論文作成を行っている。[2]はヒトサンプルを用いた研究であるが、解析に必要なサンプルはほぼ得ることができた。平滑筋生理学、生化学実験およびDNAマイクロアレイ実験を行う準備がほぼできている。[3]については、2020年度はより適切な数理モデルを考案中ではあるが、さらなる検討が必要な状況である。食道内細菌叢解析については解析に必要なサンプル採取は終了した。3つのプロジェクトの進行状況は当初予定していた通りであり、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の実施を計画している以下の3点について記載する。 [1] 【神経型nAChR刺激によるブタ下部食道括約筋弛緩反応の機序解明】:実験と解析は終了しているので、2021年度は論文化を行っていく。 [2] 【食道アカラシア各サブタイプで認める下部食道括約筋弛緩不全の機序解明】:2020年度に採取したヒトサンプルを用いてさらに平滑筋生理学、生化学実験を進めていく。また、2020年度に得たDNAマイクロアレイ結果については、バイオインフォマティクスの専門家の協力を得て、各サブタイプ別の病態に関わる遺伝子群の同定をめざす。 [3] 【食道細菌叢解析及び数理モデル解析を用いた各サブタイプ別の病態解明】:2020年度の既に採取したサンプルを用いて、食道内細菌叢解析を行う予定である。数理モデルを用いた解析は、共同研究を行っている数理生物学の専門家の協力を得て推し進めていく。
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Causes of Carryover |
研究で必要であった試薬などの消耗品については、既に研究室が所有していた試薬を用いることで、コストを抑えることができ、最終的に残額が396,473円となった。2021年度に利用する予定である。
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Research Products
(3 results)