2021 Fiscal Year Research-status Report
「脳・こころ」ストレスと動脈硬化疾患:脂質代謝物解析が解き明かすそのメカニズム
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20K08422
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
篠原 正和 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (80437483)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 脂質代謝物解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年「脳・こころ」へのストレスが循環器疾患のリスクとなることが明らかとなりつつある。本研究では「脳・こころ」へのストレスがなぜ動脈硬化性疾患を引き起こすのか、解き明かすことを学術的「問い」とした。冠動脈にはそもそも自律神経系の分布は少ないことから、何らかの液性因子の関与があるのではないかと考え、新たな生理活性物質として脂質代謝物に注目した。本研究では「脳・こころ」へのストレス環境下において変動する血中脂質代謝物を探索し、その代謝物が動脈硬化疾患発症に関わる細胞群にどのような生理活性を持つか検討することを目的とした。また「脳・こころ」へのストレスによって なぜ血中脂質代謝物の変動が生じるかについても検討する計画である。これまでの予備検討の結果、多価不飽和脂肪酸由来の特定の代謝物が抑うつ状態で低下する傾向を示 し、さらに本代謝物は抗炎症作用を持つこと、ノルエピネフリン刺激によって血中の本代謝物濃度は低下することが見いだされており、本研究によって「脳・ こころ」ストレスの動脈硬化性疾患発症への関与を解き明かす計画である。 本年度は【研究計画 2】抑うつ状態において変動する脂質代謝物の動脈硬化性疾患関連細胞群に対する生理活性の検討に取り組んだ。本研究では、好中球・単球/マクロ ファージ・内皮細胞のcell line を用い、脂質代謝物Yならびにその前駆体Xの持つ生理活性について検討を進めた。上記の培養系cell lineに、Yならびにその前駆体Xを10-1000nM の濃度にて添加し、各種炎症関連性蛋白・サイトカインの mRNA ならびに蛋白質発現の変動を解析した。また好中球・単球/マクロファージ cell line においては貪食能・接着能の変化、内皮細胞においてはバリア機能の変化等、それぞれの細胞系の持つ機能評価を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交感神経系が直接分布している末梢細動脈では、常に一定濃度のノルアドレナリンが遊離され、平滑筋のアドレナリンα受容体を刺激することで血圧維持に働いている。しかし動脈硬化性疾患が臨床的に問題となる冠動脈や脳動脈には、自律神経系の分布はわずかしか認めない。さらに循環血液中では、ノルアドレナリン等のモノアミン神経伝達物質濃度は極めて低い。したがって動脈硬化性疾患発症のメカニズムには何らか未知の液性因子の関与があるのではないかと考えた。 そこで新たな生理活性物質として脂質代謝物に注目し、「脳・こころ」ストレス環境下において変動する血中脂質代謝物を探索し、その代謝物が 動脈硬化疾患発症に関わる細胞群にどのような生理活性を持つか検討することを目的とした。また「脳・こころ」へのストレスによってなぜ血中脂質代謝物の変 動が生じるかについても検討することを目的とした。 本研究 2 年目では【研究計画 2】抑うつ状態において変動する脂質代謝物の動脈硬化性疾患関連細胞群に対する生理活性の検討に取り組んだ。動脈硬化性疾患に関連する様々な細胞群に対するYならびにその前駆体Xの持つ生理活性を検討した。本検討はまずcell line を用いた培養細 胞系にて検証を開始し、マウスを用いた急性炎症モデル(無菌性腹膜炎モデル等)・血管リモデリングモデル(片側頸動脈結紮モデル、 カフ障害モデル等)・ 動脈硬化モデル(LDL 受容体欠損マウス等)においても上記代謝物の抗炎症生理活性を評価を進めており、研究計画としておおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
【研究計画3】抑うつ状態において脂質代謝物が変動する機序の検討 抑うつ状態などの「脳・こころ」へのストレスが、どのようなメカニズムで末梢血中の脂質代謝物に影響を与えるのか、その機序の検討を進める。ストレス環境下では交感神経系の活性化が生じ、骨髄に分布する交感神経節後線維からモノアミン神経伝達物質が骨髄内に放出される。このようなストレスホルモン遊離が血中脂質代謝物に影響を与えているのではないかと仮説を立てた。循環血液中における血球ターンオーバーは比較的早いことから、骨髄内で脂質代謝物産生能の変化した血球が循環血液中に放出されることで、結果として血中脂質代謝物が変動するのではないかと考えた。 本研究3年目で実施する【研究計画3】では、全血や骨髄によって産生される脂質代謝物に対するモノアミン系神経伝達物質の影響を検討する。具体的には、好中球系・単球/マクロファージ系・Tリンパ球系・Bリンパ球系・血小板系の各培養cell lineさらにはマウスより採取した骨髄細胞に対し、モノアミン神経伝達物質を添加して産生される脂質代謝物を包括的に解析する。またマウスin vivoモデルにおいても、ストレス負荷モデル(拘束負荷等)において、骨髄・血中の脂質代謝物の変動を評価する。
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