2021 Fiscal Year Research-status Report
血液透析患者のリフィリングは何が規定しているか?リンパ管の吸収・輸送機能の役割
Project/Area Number |
20K08597
|
Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
清水 芳男 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (50359577)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 血液透析 / リフィリング / リンパ管 |
Outline of Annual Research Achievements |
血液透析患者に透析中運動させることにより、リンパ管から静脈系に対するリフィリングを増加させ、血圧低下が防げるかを検討した。透析中の運動療法はガイドラインに従い透析開始ないし開始後30分からセッション前半の時間帯で行なった。運動は負荷可変エルゴメーターの「てらすエルゴ」を用い、10W程度のウォーミングアップを5分、Borg指数を確認し11~13の強度が持続するよう20~40分継続し、5~7Wでクールダウンし終了とした。運動療法を行ったセッションのバイタルサイン、累積除水量、循環血液量(BV)計にて経時的な変化を検討した。本研究は、理学療法士・看護師・医師の監視下において行った。被験者において、心臓や呼吸器、運動器関連の運動中の有害事象は生じなかった。運動と血圧、循環血液量と累積除水量には2つのパターンが見られた。①除水が不要な場合:運動中、後の血圧変動はなく、BVもほとんど±0%で推移した。②セッションの総除水量が1Kg以上の場合:運動中の血圧は10mmHg程度増加し、終了後に運動前の血圧に戻った。BVは運動開始後から比較的急激に減少(2~5%)し、運動の後半から減少量が2%以下に戻り、運動終了後はBVの減少量が維持された。透析終了前に血圧が上昇することが多かった。1セッションの透析でドライウェイトの5%以上増加する除水量の多い患者に関しては、検討できなかった。 この結果は、運動中にはリフィリングが急激に増加せず、限外ろ過の影響を強く受けるが、終了後速やかにリフィリング効率が上昇し血圧低下を防いでいることが示唆された。運動中の血圧が低下しないのは、心拍数が95~110/分程度に維持されていることによると思われる。今年度の結果によりガイドラインの有効性と安全性が十分に示唆された。透析中の運動療法が保健収載されたため本研究が理論的な下支えになれることを希望する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、研究の流れはおおむね問題なく行えたと思われる。しかしながら、統計解析に有効な症例数を得られなかった。その原因として3つの問題が挙げられる。①COVID-19による感染対策:2019年より全国的に問題となったCOVID-19感染症は、申請者が所属する施設(以下当院)においても残念ながらクラスターが発生し、感染対策に追われた。当院は地域の基幹病院とされ、二次・三次救急対応のみならずCOVID-19感染症患者の受け入れも行っている。血液浄化センターでは、他院から入院してくる患者が大半を占めるため、運動療法に使用する「てらすエルゴ」を多くの患者で使いまわすことはできなかった。スタッフも通常業務に加えて感染対策業務に追われたため、研究に割けるマンパワーも不足していた。その中で、今年度の研究に協力を得られたことは感謝に堪えない。 ②当院における血液透析患者の特徴:外来通院患者は少数存在するが、多くは他院からの紹介入院患者である。我が国の血液透析患者の全体および導入患者の平均年齢は70歳を超えている。当院の患者はその集団の中でも心臓、脳、末梢動脈疾患などで入院される方が多く、エルゴメーターを確実に使用できる方は少ない。身体的には問題がない患者でも認知機能障害も抱えている場合があり、同意を得て、運動療法を行うことが難しい状況である。③バスキュラーアクセス不全患者の増加:当院の地域はバスキュラーアクセスの造設・メンテナンスを行える施設が少ないため、アクセス不全による患者が増加している。透析自体が不安定な状況で行われているため、研究の対象とならないことが多い。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在の研究の遅れに対し、以下の対応を考える。①COVID-19:COVID-19に対するワクチンの接種率が高齢者では80%を超え、比較的若年者が入院することが多くなっている。前年度に比べ、COVID-19蔓延以前の状態に戻りつつあり、脳、末梢動脈、整形外科疾患以外で入院される方には、研究参加へのお願いを積極的に行う。透析患者は予定入院の場合、入院以前に透析センターへ連絡がくるため、入院の連絡が来次第、研究に参加が出来る状態化を推測して、入院時に診察し、問題が無ければ研究参加をお願いする。依然として、感染対策は蔓延期と同様に行われているため、感染リスクには最大限の配慮を行いながら、研究を進めたい。②当院における血液透析患者の特徴:全体の平均が70歳を超えている患者集団であり、ADLが障害されている場合が多いのは仕方ないと考え、他科入院中の患者に関しても、主治医の許可が得られれば、研究に参加をお願いする。特に、糖尿病教育入院などADL障害がないと思われる患者さんには参加をお願いしたい。研究への理解を得られるように当該科医師・スタッフへの周知も徹底する。③バスキュラーアクセス不全患者の増加:バスキュラーアクセスが障害されている患者に対し、手術ないし血管形成までの期間あるいは術後の抜糸までの期間は時間的な余裕がある。当院では、カテーテルを留置する場合とエコー下中心静脈穿刺のいずれかの方法で手術処置までの期間の透析を全身状態によって選別して行っている。カテーテルを内頚静脈へに留置されている方には、安全にエルゴメーターを漕ぐことが可能と思われるため、参加をお願いする。昨年度はBV計が1台、「てらすエルゴ」1台で研究を行ってきたが、「てらすエルゴ」をさらに1台導入した。BV計をもう1台導入に向けて院内で調整をはかりたい。
|
Causes of Carryover |
2021年度は、①COVID-19による感染対策強化、②高齢透析患者の入院増加、③バスキュラーアクセス障害患者の入院増加による研究参加者を増やすことが出来ず、学会発表の機会も減少した。①については、血液浄化センターへ導入予定の資材も感染対策上好ましくないとされ、導入を控えた。また、本研究に必要不可欠な循環血液量(BV)計は1台で研究を運用している。 現在、COVID-19は引き続き注意深い対策が必要であるが、新規感染者の減少などにより、行動制限も若干緩和されたため、導入を控えてきた機材を購入する。また、BV計は、新しく導入したコンソールの販売メーカーから市販されていたが、これまで使用していたコンソールのメーカーからも購入可能となったため、新規に導入を予定している。またactivity of daily life (ADL)障害にて自転車漕ぎが不可能な患者に対して、電気刺激による筋収縮を生じさせるneuro-muscular electrical stimulation(NMES)を透析中に行うことも予定している。 学会発表も今年度は、会場にて発表し、オンラインで視聴も可能なハイブリッド形式が主となっており、日本腎臓学会および日本透析医学会の各総会にて2022年度は発表予定である。海外での学会については、COVID-19の現地での蔓延状況、入・帰国時の制限を鑑み参加を決定したい。
|
Research Products
(5 results)