2021 Fiscal Year Research-status Report
ヒトiPS細胞由来メラノサイトでの白斑治療・悪性黒色腫解明・美白物質の研究
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20K08660
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Research Institution | Tohoku Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
川上 民裕 東北医科薬科大学, 医学部, 教授 (20297659)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | メラノサイト / 皮膚色素細胞 / iPS細胞 / 白斑 / 再生医療 / 美白化粧品 / 脱色素斑 |
Outline of Annual Research Achievements |
皮膚メラノサイト(色素細胞)は、メラニン色素を産生することで、ヒトの皮膚に色をつけている。われわれは、ヒトの血液1滴からiPS細胞を樹立し、独自の条件設定で、メラノサイトを効率よく分化・増殖させ、大量にiPS細胞メラノサイトを産生することに成功した(特許取得)。この特許を獲得した独自培地(Human iPS cell-derived melanocyte medium;iDMM)は、数週間でヒトiPS細胞から成熟したヒトメラノサイトが産生される。開発はすすみ、advanced iDMMが完成し、ヒトiPS細胞をadvanced iDMM で培養することで、たった2週間でメラノサイトに分化誘導することに成功した。本研究の中心は、この短期間で大量に産生できるヒトiPS細胞由来メラノサイトの使用である。併行して、病変皮膚から直接、培養した皮膚由来メラノサイトを使用した研究を行う。 メラノサイトの欠如・機能不全疾患である尋常性白斑は、皮膚の色が消えてしまう、白くなってまだら状となる等、患者さんの精神的な負担は想像以上である。本研究で確立した尋常性白斑や脱色素斑への新規治療法は、有効な治療法がない現在の医療に、大きな貢献を及ぼすことが予想できる。メラノサイトが癌化した悪性黒色腫は、免疫チェックポイント阻害薬が開発されたが、充分な予後改善に至っておらず、より有効な治療法の確立が求められている。これまでヒトメラノサイトの産生は、美白化粧品開発試験に使用するまでの量を増殖することが困難であるから、データのばらつきが多く実際の使用時の信憑性に欠けてしまった(ロドデノールで社会問題となった)。こうした疾患の治療に直接役立つ研究をすすめていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
iDMM は、Stem cell factor・BMP4・Wnt3a・ET1・bFGF・αMSH・DBcAMP・チロシン・トランスフェリン・アスコルビン酸・活性型ビタミンD3など特許を取得した独自培地である。ヒトiPS細胞由来メラノサイトをヌードマウスとSCIDマウス皮膚に注射し、皮膚に青~黒の色素が産生され、注射量に比例して色調が濃くなることを確認した。そして、色素が産生された注射部位に一致して病理組織にて正常ヒトメラノサイトが検出され、表皮にも達していた。こうしたin vivo実験から臨床試験へとすすむのであるが、最近、動物愛護の観点から実験動物の使用が困難となっており、いわゆる動物実験代替法が盛んに研究されている。そこで、より生体内に近いin vitroの研究として市販されているケラチノサイトとヒトiPS細胞由来メラノサイトの共培養の条件設定を完成した。 また皮膚由来メラノサイトでは、以下の結果がでている。尋常性白斑は、正常メラノサイトと比較してチロシナーゼ量が減少していた。しかし、メラニン量は白斑メラノサイトのほうが顕著に増加していた。また、ミトコンドリア量とATP産生量は共に白斑メラノサイトで減少し、リソソームなど細胞小器官のpHも正常メラノサイトと比較して上昇していた。一方、正常メラノサイトのATP依存性プロトンポンプを阻害剤で抑制したところ、白斑メラノサイトと同様に細胞小器官のpH上昇とメラニン生成の増加が認められた。これらのことより、白斑メラノサイトにおけるメラニン生成の増加にはATP産生量の減少に伴うプロトンポンプ機能の低下を介したメラノソームのpH上昇が関与しているものと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
ケラチノサイトとヒトiPS細胞由来メラノサイトの共培養系の完成を基盤として、さらに、真皮膠原線維との三次元皮膚培養を完成して、さまざまな機序解明と臨床応用を目指す。皮膚由来メラノサイト系も継続して使用していく。 尋常性白斑や脱色素斑への次なる臨床応用として、より実践に則したハプロタイプホモのヒトiPS細胞を購入し、より大量・より高効率のヒトiPS細胞由来メラノサイトを作成する。 代表的な美白化粧品の主成分であるコウジ酸、ルシノール、アルブチン、ハイドロキノンをヒトiPS細胞由来メラノサイト培養系に濃度を変えて添加しその効果を検証する。 メラノサイトの癌化である悪性黒色腫の治療で、根治困難な症例を中心に、免疫チェックポイント阻害薬が普及している。最近、免疫チェックポイント阻害薬のなかのPD-1治療において、白斑発症例が白斑非発症例より有意に生存率が良かったことが報告された(Freeman-Keller M et al. 2016)。この結果は、メラノサイトとメラノーマ細胞(悪性黒色腫細胞)のメカニズムに関連した箇所があり、抗がん剤が作用した可能性が高い。すなわち、抗がん剤免疫チェックポイント阻害薬が、メラノサイトの癌化メカニズムを攻撃すると同時に、反対にメラノサイトでのメラニン産生機序への免疫寛容を破綻させて、白斑が生じることが想定される。そこで、治療以前に自分のメラノサイトが培養維持化できていれば、この細胞を使用して、in vitroの実験で、免疫チェックポイント阻害薬の効果や選択が確認できる。
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Causes of Carryover |
研究協力者雇用に係る人件費として使用する予定である。
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Research Products
(12 results)