2020 Fiscal Year Research-status Report
脂肪乳剤を用いたエビデンスに基づくOver Dose解毒治療の研究
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20K09271
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
杉山 育美 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (80509050)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 友嗣 岩手医科大学, 医学部, 講師 (50721974)
佐塚 泰之 岩手医科大学, 薬学部, 教授 (90162403)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 解毒治療 / 脂肪乳剤 / Over Dose / 救急 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は薬物の大量投与により中毒症状を引き起こすOver Doseの治療に対し、静注用脂肪乳剤(ILE)を用いた解毒治療を、より効率的に実施するために必要なエビデンスを示すことを目的としている。現在、ILEを用いた解毒治療は薬物の物性因子のひとつであるlogPと医師の経験を根拠に実施されている。初年度は大量摂取に使用されやすい複数の薬物の中からlogPが大きく異なる4種類の薬物アミトリプチリン、ラモトリギン、ジフェンヒドラミン、カフェインを選択し、薬物とILEの結合能を透析法にて明らかにした。各薬物とILEを混合後に透析することにより、ILEと薬物との結合の有無を明らかにした結果、アミトリプチリンとILEは4種類の薬物の中で最も強い結合が認められた一方、水溶性が高いカフェインは速やかに透析膜外に移行しILEとほとんど結合しないことが明らかになった。脂溶性薬物である3種類についてはILEとの結合率に相違が認められたものの、ILEの結合率とlogPは相関していない傾向が示唆された。 患者の治療を想定した場合、血漿タンパク質と薬物との結合が関与する可能性が示唆されたため、同様の透析法で全血と薬物を混合したサンプルについても検討した結果、全血を使用しない検討結果と同様の傾向が示された。さらに全血使用の有無で薬物の透過性に相違がなかったことより、薬物と血漿タンパク質よりもILEとの結合のほうが解毒効果に影響を及ぼすことが示唆された。 以上より、医薬品のOver Doseに対するILEの解毒効果は医薬品とILEとの結合率が関与している可能性が示唆され、今後、詳細な検討によるメカニズム解明の進展に意味ある結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施当初、Over Doseに用いられやすい薬物の中から検討に使用する薬物を絞り込み、これら薬物を定量するための測定条件の確立に時間を費やすことが懸念された。しかしながら、分析を専門とする藤田らの経験により、検討初期よりスムーズに条件設定が行われ、アミトリプチリン、ラモトリギン、ジフェンヒドラミン、カフェインすべての定量条件の確立が早期に達成された。また、ILEと混合した後に、透析法を実施することについても全ての薬物が速やかに透析膜を透過してしまうことが懸念され、透析法にて検討可能であるかが心配されたが、これまでに杉山らが薬物キャリアの物性評価を行うために透析法での検討は実施しており、スムーズに進められた。その結果、薬物水溶液単独で透析した場合と薬物をILEと共に透析した場合では明らかに透過挙動が異なっており、適切に評価できていることが明らかとなった。薬物のタンパク結合に関する検討は計画当初はウシ胎児血清を含む溶液中に薬物を添加し、透析することで検討する予定であったが、より臨床に近い条件での検討が望ましいと考え全血を使用することに変更した。この変更による進行の遅れはなく、計画通りに進められた。 研究実施計画では示差走査熱量測定装置を用いたタンパク結合能評価を実施する予定であったが、これまでの検討結果を考慮したところ、本検討が本当に必要であるかを見極めている途中であり実施していない。必要であると判断された場合は2021年度に速やかに実施することとする。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の進捗にて、本研究の基盤ともいえる薬物の選定が終了した。選択した薬物はlogPが異なるのみならず、ILEとの結合能も異なり、生体内でのILEによる解毒能が異なることが示唆された。そこで、2021年度はOver Doseに対するILEの解毒メカニズムの解明を目的として評価する。まず、薬物投与後にILEをマウスに投与し時間毎の血中薬物濃度および薬物の組織分布を評価する。組織はILEの集積が予想される肝臓や脾臓をはじめ、心臓、腎臓、皮下組織、骨格筋などを摘出して実施する予定である。申請者らはILE投与による毒性の減弱には2つの機構を予想している。ひとつは血中においてILEが薬物を保持することにより毒性を発現する組織への薬物分布が相対的に少なくなり、薬物を保持したILEが代謝・排泄されるというものである。もう一方は、血中のILEが一時的に薬物を保持し、組織と血中で薬物が平衡状態を保ち、組織分布した薬物が代謝・排泄された後に血中の薬物が徐々に組織へ移行していくというものである。血中および組織での薬物濃度を比較することにより解毒メカニズムを明らかにできるものと予想している。さらに、初年度の検討では薬物とILEとの結合能が異なることを明らかにしたが、ラモトリギンは24時間後にはほとんどが透析膜外へ移行していたものの、短時間においてはILEとの結合が認められたことより、代謝・排泄の時間をコントロールすることにより、ILEとの結合能が弱い薬物においても解毒の可能性が期待できた。すなわち、薬物の代謝・排泄機構を明らかにすることは解毒メカニズムを解明する一助にもなるものと考える。さらに、解毒メカニズムのひとつとして提唱されているfatty acid metabolism説やion channel modulation説についても検討する。
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Causes of Carryover |
当初、統計解析ソフトを購入する予定であったが現在のところ購入に至っておらず10万円以上の機器備品費を使用していなかった。2年目以降に購入する予定である。 また、薬物と血中タンパクとの結合についてウシ胎児血清を用いて実施する予定であったが、別の方法で実施したために購入せず、消耗品費が大幅に削減されたのも理由のひとつである。定量方法の確立検討においても最小限の消耗品および労力にて完了したため予定よりも少額にて済ませることができた。 コロナ禍において学会や打ち合わせに行くことができなかったため、計上した旅費についても使用しなかった。 2年目以降は動物実験が主となることより、ここに関係する動物購入費用や消耗品の支出が多くなることが予想され、有効に使用したいと考えている。
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