2021 Fiscal Year Research-status Report
遺族ケアのニーズに対するフォレンジック看護の役割と看護記録システムの検討
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20K10643
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Research Institution | The Japanese Red Cross Akita College of Nursing |
Principal Investigator |
山田 典子 日本赤十字秋田看護大学, 看護学部看護学科, 教授 (10320863)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
兵頭 秀樹 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (30306154)
的場 光太郎 北海道大学, 医学研究院, 講師 (00466450)
斎藤 和樹 日本赤十字秋田看護大学, 看護学部看護学科, 准教授 (50289766)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 遺族ケア / フォレンジック看護 / 看護記録 / 記録ツール / 遺体安置 |
Outline of Annual Research Achievements |
災害遺族支援は、急性期の情報提供が主であり、継続的な観点からの支援について十分な知見が全国に周知されていない現状が散見される。「被災者遺族支援の調査」より遺族のニーズを明らかにする計画であったが、COVID-19の変異型の感染拡大が原因で調査が難しい現状がある。その一方で、東日本大震災より11年を経て、遺族が様々な媒体を通じて語りはじめている。遺族の反応は多様で、精神的なケアのニーズは一般化が難しいことを実感している。しかし、DMORTの実践者から得られた情報をもとに、自然災害等で不慮の死を遂げた遺族へのフォレンジック看護支援について検討しつつ、フォレンジック看護支援が実践できる人材育成に必要な知識や技術とは何か、共同研究者である法医学者らが定期的に開催している死後画像診断セミナーに参加し、災害によって亡くなった方と遺族の方双方へ、求められるケアを提供できる人材育成に必要な知識や技術に関する内容の検討を重ねている。 2021年度は、COVID-19 の感染症も災害と捉え、文献をもとに遺族の求める死別のケアについて論考をまとめた。また、東日本大震災の被災地域に居住する方の「自然災害における遺族のグリーフ」と「自死遺族が背負っているグリーフ」の類似性や差異性について、先行研究をもとに分析を行った。その結果、自死遺族が背負うスティグマや自責の念の深さは、災害による「予期しない死」が原因で遺族になった者の背負う自責感と似て異なるものであった。これらの一連の文献検討より、一般的に他者が触れることが難しい「異状死」を背景とする遺族体験には、従来のグリーフケアだけでは不十分であることが推察された。そこでフォレンジックな観察眼を糸口に、従来の遺体発見と管理および遺体安置面におけるケアの不足に対して、看護の視点で貢献できる要素を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
記録ツールとして、ICTを活用した遺族に対する遺留品記録ソフトを3か国語(日本語、中国語繁体・簡体、英語)対応とし、来たりうる多死社会に備える内容のソフトが完成した。このソフトはGoogle Playで無料で配信している。ソフトの名称は「MiMoKa」と表し、遺族が御遺体の個人特定に際して、御遺体発見時の周辺状況や本人が身に着けていたもの、身の回りの持ち物を記録し、正確な個人特定に貢献できるよう発見場所の写真、身体記録、発見者の氏名等、情報の一元化とプライバシーの保護に努めた内容となっている。身体観察項目は、頭からつま先までの観察内容を選択式のタブと、自由記述式の人体図でも記入でき、看護職に限らず自治体職員も記入し、その内容を法医学者や警察医等が確認し、業務の効率化が期待できる内容となっている。また、看護師が活用することの利点は、普段から人体の観察に習熟しているため、手術痕や体格、身の回りの持ち物より、既往歴や現病歴を予測しながら看護観察とフォレンジックな証拠を破損しないよう、記録に留めることが可能である。地震及び自然災害大国の日本の災害看護の経験を活かし、国際的な支援の場でも活用できる記録ツールが開発できた。 その過程でケアの視点に立った介入とはどのようなものか、検討が必要であることが課題となった。 とりわけ遺族ケアを行う者の資質の形成と向上には教育が欠かせない。遺族に接するプロフェッショナルを育てる必要があり、単に葬儀に関わる業者とは異なる視点で、遺族ケアに際して、「科学的な根拠」と「支援・Care」のマインドを持ったプロフェッショナル育成の課題が明らかになったが、実際に記録ツールを活用する研修の機会を持てていない。
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Strategy for Future Research Activity |
遺留品記録ソフト3か国語版「MiMoKa」を掲載したタブレットを複数準備し、記録の書き方に関する研修を開催する予定である。そのため、研究メンバーに臨床心理士の齋藤和樹氏を追加し、計画を立てている。2021年度中に開会する予定で準備を進めていたが、COVID-19変異型の感染拡大のため実施を見合わせた。対面で開催したいと考えている。 また、災害時に御遺体やご遺族と関わる機会が多いのは警察組織の関係者であるため、地元の警察にタブレットを提供し、警察官と共に活用できるか、活用するにあたりどのような改良や配慮が必要か、コメントをいただいた。その中で、COVID-19の影響で、今後、大量の御遺体が発生する災害や事件が起きた際に、死体の身元確認のために、何度も納体袋を開け閉めし感染の機会が増加したり、時間経過および遺体安置所の気温によって、死後変化が進み、現状が変化(腐敗)し更に本人確認が難しくなったり、顔貌の変化や強烈な臭いが脳裏に焼き付き、対面で確認をした遺族がその後この体験がトラウマになることも予防できるといった意見もいただけた。 警察官の中には、東日本大震災の時に実際遺体の捜索や遺族対応にあたった方々が複数おられ、当事の大変さと「そこに看護師さんがいたら遺族にとっても良かったし、我々も助かったと思う。遺族の落胆や悲しみ、やり場のない怒りを目の当たりにして、私も辛かった」という感想をいただいた。これらの情報をもとに、警察の視点と法医学者の観察眼を加味した、フォレンジック看護の記録のとり方と、悲嘆や強い感情への対処に関するケアに重点を置いた「記録ソフトの活用と精神的ケア」の研修を開催する。研修参加者より、記録ソフトの改良についての意見を聴取し、自然災害時の遺族ケアについてDMORTとの連携を視座において、検討していく計画である。
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Causes of Carryover |
作成したソフトを活用しての研修会の開催や研修講師の謝金の執行が感染症の影響のため出来なかった。22年度の開催に向けて準備しており、当初予算を適切に執行する予定である。
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Research Products
(7 results)