2020 Fiscal Year Research-status Report
土壌有機炭素モデルで解き明かす、森林伐採に対する土壌中貯留炭素動態の長期応答
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20K12143
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
太田 雅和 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究副主幹 (00772865)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小嵐 淳 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究主幹 (30421697)
高木 健太郎 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (20322844)
梁 乃申 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 室長 (50391173)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 土壌炭素 / 森林伐採 / モデル / 炭素循環 / 野外観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、森林伐採に対する土壌中の炭素循環の応答機構の解明と、国内の森林伐採による伐採区からの炭素放出量の評価を目的としている。森林は、全球平均では正味の炭素吸収源として働いている。一方で、東南アジアや南米で盛んな森林伐採により、森林による吸収量の3倍の炭素が放出されている。成熟した森林内の土壌では、リターフォールおよび根枯死による植物遺体由来の炭素供給と、微生物分解による炭素(CO2)放出が均衡し、一定量の炭素が貯留されている。伐採に起因した植生遷移により、土壌への炭素供給量に変化が生じた場合、それまで土壌中に貯留されていた炭素が大気へと放出される可能性がある。樹木の根が深く伸長する森林土壌では、表層(深度およそ30cmの層)以深の土壌に多く(5割超)の炭素が貯留されている。このため、伐採に伴う土壌からの炭素放出の評価では、表層のみならず、それ以深の土壌について、炭素循環の解析が不可欠である。しかし、既往研究の多くは、有機物が密に存在する表層土壌を対象としていること、土壌深部の炭素循環を観測する有効な術が無いことから、森林伐採に起因する土壌からの炭素放出の評価は困難であった。 そこで、本研究は、土壌の浅部から深部まで、炭素循環を予測できる土壌有機炭素循環モデルに森林内の炭素動態を組み込み、これを皆伐・植林サイトでの観測・分析を通してパラメタリゼーションし、森林伐採時の陸域炭素循環を定量的に評価可能なものとして確立することで、上述の問題を解決する。このために、令和2年度は、森林内炭素循環について、モデルの構築および動作試験、ならびに、現地観測の継続による森林内炭素循環データセットの拡張を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
森林内炭素動態モデルの構築においては、森林内の炭素プールとして、樹木バイオマスとしての葉、木部、細根および粗根を考慮することとした。加えて、これらのリターに相当するものとして、地上有機物層における葉リター、木質リター、および、土壌中における細根リター、粗根リターを考慮した。各プールにおける炭素動態は、樹木バイオマスについては、光合成に伴う炭素入力、リターフォールあるいは根枯死による炭素消失を考慮し、リターについては、リターフォールあるいは根枯死からの炭素供給とリターの微生物分解に伴う炭素消失(CO2生成)を考慮した。このモデルを、これまでに原子力機構が開発した陸面CO2循環・土壌有機炭素循環モデルに導入し、本モデルの計算で必要となるパラメータの調査・整備を実施した。これにより、既往研究にはない「植生によるCO2固定→リターフォール及び根枯死による地表及び土壌への炭素供給→地表および土壌中の炭素の鉛直輸送(溶存体)→表層以深の土壌でのCO2生成→生成CO2の大気への再放出と植生による再固定」といった、森林内の包括的炭素循環を計算できるモデルが構築された。モデルの動作試験として、針広混合樹林を対象とした計算を実施した。その結果、モデルが、200年間にわたる樹木バイオマスの経時変動およびリターフォールに起因した土壌中での炭素蓄積を定性的に矛盾なく計算することが確認された。 解析で利用する森林内炭素循環データセットの拡充として、本研究の対象サイトとする北海道大学北方生物圏フィールド科学センター天塩研究林内の皆伐・植林サイトにおいて、大気中CO2フラックス、微気象データおよび地表面CO2フラックスの連続観測を継続実施し、観測データの更なる蓄積を行った。 以上のように、本年度は、申請時に設定した計画(モデル構築および森林内炭素循環データセット拡充)を概ね達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で提案した森林内炭素循環モデルを、天塩研究林内皆伐・植林サイトに適用する。当サイトでは、皆伐・植林前後およそ10年間にわたる炭素循環の観測が実施されており、本観測結果と本研究で実施する土壌分析の結果を通してモデルをパラメタリゼーションすることで、モデルを森林伐採時の陸域炭素循環を定量的に評価可能なものとして確立する。モデル計算結果から、当サイトについて、皆伐から現在まで(2003年から2020年)、そして観測では評価不可能な将来(向こう100年間)にわたる森林からの炭素放出量を明らかにする。得られる結果は、わが国の主要な森林である冷温帯林の土壌の潜在的炭素放出能を初めて提示するものである。 上記のモデル計算に加えて、2003年から当サイトで行っている大気中および地表面CO2フラックス連続観測を継続するとともに、土壌採取(深度60cmまで)を実施し、土壌の比重分画と炭素14分析から、土壌の炭素量と滞留時間を同定する。森林内の長期的な炭素循環において重要となる、滞留時間の長い(数10年あるいはそれ以上)炭素量を同定し、この結果に基づいてモデルをパラメータリゼーションすることで、モデルの予測性能の大幅な向上が見込まれる。加えて、伐採区における野外連続観測と高度な土壌炭素分析に基づく本データセットは利用価値が高く、本研究のみでなく、今後の陸域炭素分野の研究に広く役立つものとして提案できる。
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Causes of Carryover |
令和2年度に購入した物品が予想より安価であったことと、新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況を鑑みて国内出張を取りやめたため次年度使用額が生じた。次年度使用額は、令和3年度分経費と合わせて、出張(研究打合せ、試料採取)に係る費用や消耗品類の購入に係る費用として使用し、研究が円滑に進むように有効的に活用する。
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Research Products
(3 results)