2020 Fiscal Year Research-status Report
淡水資源のヒ素汚染対策における嫌気性ヒ素酸化細菌の有用性の評価
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20K12215
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小島 久弥 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (70400009)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヒ素酸化細菌 / 硫黄酸化細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
淡水資源のヒ素汚染対策に嫌気性ヒ素酸化細菌を利用するための基盤として、モデル微生物を用いた研究で知見を蓄積することが有効であると考えられる。こうしたモデル微生物の候補として、温泉から分離された硫黄酸化細菌であるM52株を選定した。M52株は、重炭酸で緩衝した完全合成培地で増殖することが判明していた。しかしこの培地は調整手順が煩雑なうえ、増殖が安定しないという問題があった。そこで、M52株を確実に培養でき、なおかつ調整が容易な培地の探索を行った。M52株のゲノム配列から予想される生理学的機能を勘案しつつ、数多く組み合わせで培地成分を検証した。その結果、アミノ酸と有機酸およびビタミンを加えた単純な組成の培地を開発するに至った。開発した培地では、M52株の安定した増殖が認められた。さらにこの培地の調整は、従来のものと比較して圧倒的に簡便であった。この効率的な培養法の発見により、M52株を用いた研究が大きく加速することが期待される。この培地はM52株に近縁な別の微生物の培養にも有効であることを併せて確認した。 M52株の基礎的な性質として、従属栄養的な増殖に利用可能な有機化合物を特定した。これまでに判明していた酢酸と乳酸に加え、コハク酸やフマル酸を始めとする数種類の有機酸が増殖に利用されることを確認した。一方で、糖類の利用は認められなかった。また、化学合成独立栄養的な増殖は、チオ硫酸の他に単体硫黄やテトラチオン酸を酸化することによっても起こることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
M52株を用いた実験では、従来の培養法で増殖が安定しないという問題が起こった。それを受けて培養条件の検討を行ったが、目的に合った培地組成を見つけ出すのが予想以上に困難であり、研究期間の大半は培地の開発に費やされた。 当初の計画では、嫌気性ヒ素酸化細菌の環境中での分布を明らかにするために野外調査を予定していた。しかし、感染症の拡大による各種の移動制限などがあり、現地調査は実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きM52株を用いた実験を実施することにより、淡水性の嫌気性ヒ素酸化細菌に関する知見を蓄積する。また、近縁種に当たるJ5B株を同様の実験に供し、比較対象として用いる。 環境中での分布に関しては、感染症の流行状況に応じて可能な範囲で野外調査を実施する。また、他の研究者から各地で得られた試料の提供を受けることも検討する。
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Causes of Carryover |
感染症の拡大等により、研究の遂行に遅れが生じたため。 当初予定していた研究内容は、次年度中に実行する見込み。
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