2023 Fiscal Year Research-status Report
温泉事業と共生する地熱資源利用の手続統合型持続可能性アセスメントの実装展開研究
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20K12306
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
柴田 裕希 東邦大学, 理学部, 准教授 (40583034)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 地熱開発 / 持続可能性アセスメント / 再生可能エネルギー / 社会影響評価 / 合意形成 / 戦略的環境アセスメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は地熱開発について、地域的な資源管理と地域的合意を可能にするためのアセスメント手法の開発を目指すものである。このための方法として「手続統合型SA」のあり方を提案していくことを目指し、温泉地域の文化・歴史的文脈を考慮した、社会的合意形成に基づいた資源管理を目指している。本研究は①令和2年度:対象地の選定及び関係の構築、②令和3-4年度:アクションリサーチの実施と効果検証、③令和5-6年度:手続統合型SAの政策ツールの提案の3段階で展開することを予定してきた。 ①の研究結果からは、社会的受容性の向上に関する既存研究に基づき、経済的側面の情報提供を行う地域付加価値分析の手法と、開発事業における社会的影響評価 (SIA)の手法を併用するプロセスモデルの有用性が示唆された。しかしながら、新型コロナウイルスの影響で、②の研究フェーズで想定していた社会実験の実施が難しくなったため、研究手順の一部を見直し、②のアクションリサーチに相当する効果検証のための事例調査を実施してきた。これらの調査を通じて、本研究の提案する政策ツールが持つ有効性や課題について、異なる社会条件においてその検証を事例調査として実施してきた。令和5年度は、地熱開発の協議が比較的進展している事例として、新たに北海道、東北、中部の3地域の調査を行った。これらの事例調査は、現在資料の収集の段階にあり、今後、繰り返し現地担当者と協議を重ねることでその効果検証を展開する予定である。同時に、より具体的なプロセスモデルの提案と社会実装に向けた実践的な検討を進めるために、環境アセスメント学会において、本研究の実施者が代表となる形で研究会を設立してきたが、この研究会は本研究の成果について、現在取りまとめの最中である。この取りまとめを用いて、本研究の提案するプロセスモデルの社会実装を図っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度の研究では、中部地域の分析対象地における調査を中心に展開し、社会的側面のアセスメント実施標準として認識される社会的影響評価(SIA)ガイダンス(国際影響評価学会IAIA)の応用可能性の分析を行った。その結果、開発に至らなかった事例においても、SIAに相当する取り組みが確認された一方、SIAの実施方法、社会的な条件に関する課題が整理された。令和5年度における調査では、比較的開発に向けた協議が進展している地域を対象に、事例分析に向けた資料の収集と、自治体担当者の取組状況ならびに課題に対する認識を確認するヒアリング調査を展開してきた。その結果、概ね分析に必要な資料の収集は達成できたが、その詳細の分析が終了しておらず、また、資料の欠損する部分に関しては関係者に追加のヒアリング調査が必要になることが見込まれる。加えて、令和5年度に調査対象地とした事例においては、複数の事業者による開発の計画や協議が、並行して進捗するなどして、地下資源に対する開発圧力の増加に対する過剰利用の懸念が生じはじめていることが確認された。これは、これまでに開発促進や、適正な開発に向けた調整といった、個別の開発事業を対象としたアセスメントでは対応が難しいと思われる懸念である。このことから、今後は、エリア全体を対象とした累積的な影響にも対応しうる資源管理の枠組みを検討する必要性も考えられた。この点は、当初の研究計画の想定していたアセスメントの範囲を超える事項となるため、改めて地熱開発のための持続可能性アセスメントとして、対応すべき範囲について検討する予定である。このように、研究計画段階で想定していた研究結果について、一定の範囲で必要な結果が得られているといえ、調査方法の変更にともなう資料の収集と分析については、追加の現地調査が必要になると考えられることから、現在の進捗について「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度から6年度にかけては、手続統合型持続可能性アセスメント(SA)の政策ツールの提案として、「全体のプロセスモデル(成果1)」と各ステップにおける「包括的なリスク評価手法(成果2)」、「リスク対策と便益分配オプション協議手法(成果3)」の2つのサブモデルで構成される政策ツールの提案を目指してきた。一方、途中の研究期間において、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、研究対象地における地熱に関する協議にも、一部で当初の想定と異なる部分が生じている。このことから、想定していた社会実験の実施から予定を変更し、国内の地熱開発が中止になった事例と開発に向けた協議が継続している事例の両方を対象に、実務担当者、自治体担当者、プロセスに参加した温泉事業者・利害関係者らと議論を重ねながら事例調査を展開することとした。現在は、北海道内の2地域、中部地方の2地域、九州地方の2地域を含む複数の事例地において現地開発関係者の協力の下、協議記録資料の提供とその分析を行っている。この調査と分析は令和6年度の前半に終了させることを目指している。そして、その結果を受けて令和6年度の後半には、SAの提案として、我が国の地熱開発の経緯と地域文化に則した形で、手続統合型持続可能性アセスメントのプロセスモデルを構築し、事例の現場へのフィードバックヒアリングを実施する予定である。さらに、このフィードバックヒアリングの結果をプロセスモデルに反映し、研究成果として今後の開発候補地の自治体担当者に政策ツールの情報を発信する。これによって汎用性のある政策ツールとしての手続統合型持続可能性アセスメントの提案と実装を目指すものである。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大防止のための措置にともない、本研究が研究対象地としてきた地域でのアクションリサーチをともなう社会実装の試みが困難となった。これにともない、フィールドワークの回数及び期間が制限されたことにより、国内旅費の使用が予算額を下回った。また、このアクションリサーチのための物品購入ならびに現地での協力者への謝金の支払いの必要がなくなったため、これらの予定していた支出は行っていない。以上の理由により次年度使用額が生じた。この次年度使用額と当該年度以降の請求額については、当初の研究計画から見直しを行ったうえでの現地調査を実施することによる旅費および国際会議での研究発表の旅費に用いるものとする。具体的には、北海道ならびに、中部、九州の各地方における開発候補地を対象に、ステークホルダへのヒリング調査と資料収集を展開する。加えて、研究成果について研究対象地へ提示することで現地担当者のフィードバックを得るための国内旅費に用いる。さらに、その成果を国際影響評価学会にて発表する。
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Research Products
(6 results)