2021 Fiscal Year Research-status Report
Construction of a synthetic model for interpreting the philosophy of the late Descartes through the concept of nature
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20K12779
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 真人 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 講師(非常勤) (90839218)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 神 / 自己原因 / 類比 / 分析 / 化体 / 表面 / 感覚 / 心身合一 |
Outline of Annual Research Achievements |
デカルトが自らの哲学の実効性を、神学的考察の方面から明らかにするために採った方法がどのようなものであったかを、二つの観点から検討した。 まず、神の自己原因概念という哲学・神学史上の一大問題に対し、デカルトが若年から用いてきた類比という認識方法をなぜ、そしていかに適用したかについて考察した。類比は元来、若き哲学者が数学研究において真理発見のために用いていた、既知の事項から未知の事項を導き出すための方法であり、その意味で「分析」の核を成す認識方法である。 これを『規則論』で一般的認識論の方法にまで昇華させた後、自然学研究では「比較」に姿を変えて応用したデカルトは、神の自己原因概念という、われわれの認識を超越した真理を読者に自らで発見させ、それによって読者の説得をめざすために類比を用いたこと、すなわち、デカルト神学の根幹を説明するため、分析と綜合の方法が混在した論証として類比を用いたことを明らかにした。 次に、デカルトがさらなる神学上の論証を果たすため、自らの自然学を用いて化体を説明し、スコラ哲学に対する自らの哲学の優位性を示そうとした試みについて、デカルトの達成と課題を考察した。具体的には、聖体の秘蹟後にパンの感覚的性質がなぜ残るのかという問題を、デカルトは自らの「表面」理論によって自然学的な観点から説明した。 これによって、自然学から(形而上学を通じて)神学に至る問題はすべて、感覚構造という自然学的な観点から矛盾なく一貫して説明可能であること、すなわち、信仰の問題を「人間的な論拠」によって証明可能であることを示した一方で、化体そのものがなぜ発生するのかという問題はほぼ触れないまま終わったが、これは人知を超えた超自然的な事実でありながら、心身合一という人間的事実にも繋がる問題であり、以後のデカルトの研究を方向づける一つの要因となったことを解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神学上の問題を論じるためにデカルトが採用した方法が、①類比という、若年時から用いてきた認識論的方法であること、②「表面」という自然学的観点から論証すること、の二方面からのアプローチによって、認識論・自然学・(形而上学)・神学はデカルトにとって、アリストテレスにおけるように相互に独立した学問ではなく、緊密に結びついた体系を成していることを示した。 これによって、①類比ないしは分析の方法は、真理発見法として『規則論』以来、われわれの精神に自然本性的に備わっているものと一貫して考えるデカルトの手法が、神学上の重要な問題にも適用されていることが明らかになり、②化体という神学的問題に対しても、物体の自然本性である「延長」の様態の一つとしての「表面」の考察によって自然学的に解明できることが示された。 人間知性は有限なので、どちらの問題も、そのままでは認識が困難もしくは把握不可能なものだが、これらを自然本性の観点から考察することで、人間知性にとっても認識可能な問題になるとデカルトが考えていたことが本研究によって明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、「諸答弁」から『哲学原理』に至る中期から後期デカルトの考察における自然本性概念の現れを、「ユトレヒト論争」などの神学的討論を適宜参照しつつ考察する。これによって、一方ではデカルト形而上学の核の一つを成す神における自然本性概念が後期デカルトの考察ではどのように現れるのかを追跡し、他方では、人間固有の自然本性に関わる問題である心身合一へと向かうデカルトの考察を辿る。 これら二つの考察が交錯して表されているのが後期デカルトの代表作であり、スコラ哲学に替わる教科書として学校で採用される狙いをもって著された『哲学原理』だが、この著作において見出される自然本性概念が、スコラ哲学に比していかなる点で独自であるのかを、自然学的・形而上学的観点から検討する予定である。 これにより、デカルト晩年の最重要課題となった情念と道徳の問題における自然本性概念の現れを考察するための研究の道筋を整えることが、次年度研究における主な方針である。
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Causes of Carryover |
今年度は必要書籍の購入が増加したため、計40万円の前倒し支払い請求を行って精算した結果として、37,540円の残額が生じた。これは次年度の必要書籍等の購入に充当される予定である。
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