2023 Fiscal Year Annual Research Report
Construction of a synthetic model for interpreting the philosophy of the late Descartes through the concept of nature
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20K12779
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
佐藤 真人 法政大学, 文学部, 准教授 (90839218)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | デカルト / 自然本性 / 情念 / 心身合一 / 愛 / 神 / マリオン / カンブシュネル |
Outline of Annual Research Achievements |
後期デカルト哲学における人間としての自然本性の考察は、ボヘミア王女エリザベトとの文通を経て『情念論』に結実する。『情念論』では人体の作用による魂の受動としての情念の理論が展開され、六つの基本的情念が挙げられる。本研究では愛の情念の独自性に着目し、自身の神学思想と人間学思想の一つの到達点として、人間の自然本性における愛の現れをデカルトが考察したとの仮説に基づき、デカルト研究の第一人者であるマリオンとカンブシュネルの分析を批判的に取り入れつつ考察した。 デカルトの愛理論の特徴は、アリストテレスやトマス・アクィナスとは異なり、愛を対象によって区別せず、「私」が善とみなすものとの結合をめざすことが愛の本質であると考えることにより、神の愛と人の愛を一義的に考察することを可能にした点にある。これに関し、マリオンはデカルトが他者への愛の理論によって『省察』の自我を超越したと述べ(慈愛による形而上学の「解任」)、カンブシュネルは神への知的な愛といえども情念の愛を必ず引き起こすデカルトの人間学的視点を強調した。これらの考察に対して本研究は、デカルトの自我は常に他者とともにあり、他者への愛は構造的に神と人間を包含していることがマリオンの分析には抜け落ちている点、また、心身合一を重視するカンブシュネルでは人間の情念としての愛のみが注目され、デカルトにとって本質的な愛は身体とは区別された精神的な愛であることがその考察に不足している点を指摘した。 精神的な愛と情念としての愛はその発生構造上は区別されるものでありながら、「私」において矛盾なく共存し、一つの愛として現れる。デカルトは身体とその作用に独自の価値を認めることで情念としての愛に精神的な愛との本質的な区別をせず、どちらの愛も共に善であるという主張を通じ、「私」の自然本性そのものが善であることの裏づけとなっていると本研究では結論した。
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