2020 Fiscal Year Research-status Report
ザントラルト『ドイツ・アカデミー』の画家伝再考:著者との直接の交際という観点から
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20K12868
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高松 千尋 (大杉千尋) 日本大学, 芸術学部, 研究員 (40845260)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ザントラルト / バロック美術 / プッサン / ヴァランタン・ド・ブーローニュ / 新高ドイツ語 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は当初の予定と異なり、新型コロナウイルス流行の影響により日本国内においてのみ研究を行わざるをえなかった。そのため、研究計画を大幅に修正し、オンライン資料を用いての『ドイツ・アカデミー』およびその著者ザントラルトについての調査に時間を割いた。 上半期はザントラルト『ドイツ・アカデミー』所収の「プッサン伝」の翻訳を日本大学元教授の木村三郎氏とともに進めた。プッサンはフランスの古典主義を代表する画家として非常に評価が高く、専門研究も多数あるものの、従来ザントラルトによる「プッサン伝」は重要視されてこなかった。これを詳細な注釈と解説を施した翻訳として出版することで、今後のザントラルト研究、プッサン研究の両方に資すると思われる。この翻訳は2020年発行の『日仏美術学会会報』に掲載された。 下半期は同じくザントラルトの『ドイツ・アカデミー』所収の「ヴァランタン・ド・ブーローニュ伝」に注目して考察を行った。同資料中に記されたヴァランタンとプッサンのサン・ピエトロ大聖堂における競作についての言説では、先行研究においては「プッサン伝」のみが引用されてきた。しかし「ヴァランタン・ド・ブーローニュ伝」においても実は言及があり、双方を比較してはじめて、ザントラルトが両作品にどのような評価を下していたかが明確に判断できるのである。「ヴァランタン伝」のテクストを詳細に読み解くと、ザントラルトはプッサンよりヴァランタンを高く評価していたことが理解される。この成果は2021年発行の『美術史論集』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの世界的な流行により、海外渡航ができなくなった。そのためザントラルトの『ドイツ・アカデミー』原本や、そこで言及されている作品の現地調査ができていないまま研究を進めざるを得ない状況である。 また、上半期には所属大学含め国内の図書館も使用することができなかったため、実質的にオンラインの資料に頼っての研究にならざるをえなかった。『ドイツ・アカデミー』そのものは活字化資料とオンライン資料とによって翻訳、分析作業はほぼ当初の予定通り進んでいる。現在2人分の伝記の全訳を終え、同書末尾に付録としてつけられたザントラルト自身の伝記の翻訳にとりかかっている。 しかし、言及された作品の実見が不可能であることにより、一部の研究については現在発表を差し控えている状態である。作品自体の詳細な分析なくして研究の公開は不可能だと考えたためである。これについては、渡航可能になり次第、現地で作品を実見して作品の分析につとめ、成果を発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度はミュンヘン等ドイツ国内、ローマ、パリにおける調査を予定している。2020年度に調査ができなかったサン・ピエトロ大聖堂のプッサンとヴァランタン・ド・ブーローニュの作品等、また今後研究を進めていく予定のクロード・ロランの作品、またザントラルト自身の作品、そして『ドイツ・アカデミー』の原本がその調査対象である。新型コロナウイルスの流行が終息次第渡航する予定であるが、状況は未確定であるため、更に次年度に繰り越す可能性も視野に入れて、日本での予備調査を入念に行う。 海外渡航が困難な状況が続く場合は、引き続きオンラインの資料を中心に調査を進め、必要に応じて現地図書館等に問い合わせて協力を仰ぐ予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行により海外調査を中止したので、旅費相当分を繰り越した。また、上半期に十分な文献調査ができなかったため、消耗図書費の一部を繰り越した。 2021年度は、2020年度と同じく新型コロナウイルスの流行により渡航を断念せざるを得ない状況が継続すると思われる。そのため、図書の購入による資料の収集を中心に35万円程度予算を使用したいと考えている。ただし、世界的に新型コロナウイルスの流行が終息が見られた場合においては、当初の計画通り海外調査を2回程度行いたい。これには40万円程度の費用を充てる予定である。
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Research Products
(2 results)