2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K12910
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高山 大毅 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00727539)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 江戸漢詩 / 徂徠学 / 古文辞 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、研究期間開始前に発表した、「古文辞派詩の修辞技法――縁語掛詞的表現と名にちなんだ表現」(『国語国文』89巻2号)を基礎に古文辞派の表現技法について検討した。縁語掛詞的表現の問題が複数の典拠表現を結び付ける表現と結びついていることなどが明らかになった。具体的な成果は下記の通りである。 典故に基づき「明月」で「珠」を修飾する表現が漢詩文でしばしば用いられる。興味深いことに古文辞派の詩では「珠」ではなく「璧」を「明月」の語で修飾する例が見られ、とりわけ高野蘭亭の詩に多い。この問題を手掛かりに典故と詩人個人の関係を分析した「「明月璧」と高野蘭亭」(『日本中国学会報』第72号)を発表した。徂徠学派における「名づけ」の問題の重要性が浮かび上がり、今後の研究に新たな展望を得た。古文辞派詩における地名と人名の問題はこれまでも申請者は取り上げてきたが、徂徠による名づけが学派の人々にとって大きな意味を持ったことが明らかになった。 また、徂徠学派の文学論について、「共感」と称される感情の分類という観点から検討を加えて、「江戸時代の情の思想」(『世界哲学史6』、筑摩書房)として発表した。これまでの研究で「「人情」理解」と呼んできた思考の在り方について、他の思考・感情と比較することによって新たな知見が得られた。この知見は、自己と異なる立場の人物になり切って制作する楽府題の詩を分析する上で重要になると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍の影響で地方の図書館・文書館などでの資料調査を行うことはできなかったが、入手可能な文献を分析することで、古文辞派の表現技法の特色を考える上で興味深い事例(「明月璧」の語の使用)を発見し、それを立脚点とすることで、徂徠学派における名づけの問題の重要性に気づき、それに関する研究成果を論文化して発表することもできた。2020年度に得られた知見は、2021年度以降に見送った資料調査の基礎となり得るものであり、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
古文辞派の表現技法について、明確な展望が得られてきたので、明代の他の詩人たちと比較しながら、どの程度、それらの特色が彼ら特有のものといえるのかについて考えていきたい。また、徂徠学派において徂徠の明詩注釈である『絶句解』が重要な著作であることが一層明らかになってきたので、『絶句解』自体及びその受容について分析していきたい。徂徠学派の詩の特色を考える上では、江戸後期の詩風の検討という迂回路を経ることが有効なのではないかと考えている。江戸後期の詩についても本年度は分析していきたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で、地方の図書館・史料館に赴き、資料調査を行うことが困難であった。資料調査の際に、複写を依頼することがしばしばあるが、今回は調査自体を行うことができなかったため、複写に関わる費用も発生しない状況が生じた。コロナ禍の状況が今後どうなるかは見通しが立たないが、感染状況がある程度落ち着いた段階で、資料調査を行いたいと考えている。
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