2021 Fiscal Year Research-status Report
近世期文芸における「食」の表象研究―食材、食事・調理の風景をめぐって―
Project/Area Number |
20K12914
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
畑 有紀 新潟大学, 日本酒学センター, 特任助教 (60768422)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 食文化史 / 絵巻 / 草双紙 / 浮世絵版画 / 米の文芸表現 / 酒の文芸表現 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、絵巻、奈良絵本、仮名草子、草双紙、および浮世絵版画を含む絵入り文芸を主たる対象とし、文芸に表現された「食」の分析を通じて、近世期の文芸の創出を明らかにするものである。具体的には、文芸に描かれた「食」について、料理書、儀礼書、本草書など、近世期の食文化関連資料を用いて注釈を加えた上で、その背景にある実際の食生活との同異を検証し、その変容を探る。 本年度は、これまでに調査を行った絵巻や草双紙、浮世絵版画の中から、広く酒や米を描く文芸の系譜を整理した。『酒飯論絵巻』に見える酒と飯をめぐる論争にはじまり、近世後期の黄表紙・浮世絵版画に見える酒と餅の合戦に至るまで、米を中心にいかなる文芸表現が生まれたのかをまとめた。この成果については、論考が書籍に掲載されたほか、講演も行った。 また、酒と他の物品の対比として、酒・煙草・茶の三点を擬人化する黄表紙『通俗三呑志』の翻刻を行った。現代では嗜好品と分類される三点のうち、酒のみが個別の銘柄を用いて表現されており、文芸の分析を通じ酒のブランディングの先行性を検証した。この翻刻資料と、考察を行った論文は、それぞれ査読を経て学術誌に掲載された。 さらに、酒をめぐり料理書・本草書の記述を精査する中で、酒(現代の清酒)に食材等を浸漬して作る、薬酒が頻出することが認められた。特に本草書にはその効能が記載されており、近世期における酒が健康維持目的に利用された可能性を検討するに至った。これを契機として、薬酒について生化学を専門とする研究者との共同研究も開始した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の流行により、当初予定していた資料調査が十分に行えていない。これまでの研究の中心としてきた、近世後期の草双紙・浮世絵版画等の資料については分析、検討が進んでいるものの、絵巻や絵本、浮世草子など近世初期の資料収集が遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
分析対象とする資料の選定は済んでいることから、次年度には絵巻、絵本の調査に注力する。加えて、新型コロナウイルス感染症の流行状況によって資料調査が叶わない場合に備え、デジタルデータや影印本、図録などを積極的に利用した上で、描かれた飲食物の同定を進める。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、当初計画していた資料調査が進められなかった。今後は、所蔵機関での資料調査のほか、書籍や図録を用いた資料収集を進め、遅れている分析を積極的に推進する。
|
Research Products
(6 results)