2023 Fiscal Year Annual Research Report
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20K12922
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Research Institution | Gunma Prefectural Women's University |
Principal Investigator |
板野 みずえ 群馬県立女子大学, 文学部, 准教授 (70867001)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中世和歌 / 新古今時代 / 京極派 / 叙景表現 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究の集大成として単著『新古今時代の和歌表現』を出版するための作業を行った。本書は、申請者がこれまで研究テーマとしてきた和歌における「景」とは何かという問題を軸に、新古今時代から京極派の時代までの和歌を射程に入れ、表現史の面から和歌史の書き換えを図ったものである。 特にこの単著を出版するに際し、これまでの研究を補完するものとして、博士論文でも一度取り上げたことのある藤原定家の「年も経ぬ祈る契りは初瀬山尾上の鐘のよその夕暮」という一首を足がかりに、恋歌における叙景表現の再検討を行い、書き下ろしの論としてまとめた。ここでは藤原定家の和歌においては、景からはじき出された作中主体が俯瞰的な視点から描かれており、景は作中主体の心中の単純な喩ではなくなっていることを指摘した。 この傾向は新古今時代の和歌に見出される「景」と「心」とのずれや懸隔を描写するための一つの方法である。 これまでの研究を統合した結果、これまで共有可能なものとして一首中に提示されてきた「景」は新古今時代に至って変質し、共同性や「心」から切り離された存在として新たな性質を獲得していることが明らかになった。それは「景」と「心」との懸隔、ずれを歌うことそのものが共有可能な事柄となったことを示してもいる。このことは「心」の客体化を推し進め、京極派和歌に至って「景」は「心」と等価の存在として鋭く対峙することとなった。 以上が本研究の集大成として上梓した『新古今時代の和歌表現』(花鳥社、2024年)で提示した結論である。
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