2020 Fiscal Year Research-status Report
日本近現代文学における〈世界〉概念の変遷とその表象
Project/Area Number |
20K12925
|
Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
坂口 周 福岡女子大学, 国際文理学部, 准教授 (20647846)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 世界文学 / 文学理論 / 現代小説 / 感情移入 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近現代の日本語文学のなかで言葉として使用され、また各作品の内容として表象されてきた「世界」の意味を系譜学的に探求することを目的として、近代以来の「世界」概念の変遷を三つの時期に区分して研究を進めている(①19世紀初頭~1920年代 ②1930年代~1960年代 ③1970年代~現在)。令和2年度に発表した論文等は、「坪内祐三『慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り――漱石・外骨・熊楠・露伴・子規・紅葉・緑雨とその時代』再読」(『ユリイカ』第52巻第5号)及び「現代小説と感情移入の機制―理論的共生としての「演技」の系脈―」(『昭和文学研究』第81集)の二編のみだが、前者は①に関わり、後者は全時期に当てはまる本研究の構想を反映させた下図の役割を果たす論考である。COVID-19の影響によって予定していた口頭発表の機会を失ったため、その後は、特に後者の議論を軸に、令和三年度あるいは四年度の単著出版の構想に合わせた執筆を主に進めてきた。同論文はその構想の一章分(四分の一の字数)を構成するが、大幅な加筆修正を終えている。また、三区分した時期の①に当たる書下ろし論考二章(あるいは分割して三章)分の初稿(約十万字)の執筆も終え、合わせて予定分量の約四分の三を脱稿した。また、同書は本研究の目標の一つである研究成果の国際的な発信とネットワーク形成を睨んで英語版の翻訳の出版も企画しており、翻訳者への依頼(脱稿分)を済ませた。翻訳作業には一年ほどの時差が想定され、現執筆分の翻訳原稿を手にする時期は今年度末を見込んでいる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、やや大局的な理論研究の側面が強いため、明示的な成果や経過報告として表すことが難しい。特に令和二年度は、当初予定していた、関連テーマ(「二つの世界文学の間―いま比較文学は何ができるのか―」)のシンポジウム登壇(日本比較文学会全国大会)及びアメリカの大学(UCLA)における招待講演の予定が中止・延期となったため、議論の熟成度を測ることがより難しくなった。加えて、本研究期間の一、二年目は、論文執筆よりも単行本出版によるテーマの全体像の確立を優先させているため、研究成果の具体的な提示の量や仕方に課題があると認識している。ただ、研究実績の概要にも記したとおり、単行本の出版という計画の中間目標に対して実行が遅れているわけではなく、進捗状況は概ね順調といえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度の作業を継続する。出版関係については単著執筆の終了と出版社の選定、および英語版の出版社の選定までの進展を予定している。また、その後の研究成果の公表機会の確保に向けて、学会発表等の学術的イベントへの応募を継続する。ただし基本的には、令和3年度における現勤務校での運営業務及び教育活動等の事情の変化によりエフォート率の低下が余儀なくされる予測があること、また遅くとも令和4年度中の主要な研究成果として見込んでいる単行本の出版は、論文を分散発表するよりも多くの負荷が掛かるため、本年度いっぱいは執筆及びそれに直接的に関わる研究作業に注力する予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響により、予定していたシンポジウム登壇及び招待講演が延期・中止されたため、計上していた「旅費」が一切執行されなかったことによる。また、「人件費・謝金」の使用として予定していた翻訳依頼を令和3年度に持ち越したことによる。感染状況に鑑み、令和3年度も「旅費」の使用を見込んでいないため、「人件費・謝金」において二年分の執行を予定している。
|