2023 Fiscal Year Research-status Report
日本近現代文学における〈世界〉概念の変遷とその表象
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20K12925
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Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
坂口 周 福岡女子大学, 国際文理学部, 准教授 (20647846)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 世界文学 / ポストヒューマン / 語りの構造 / 国木田独歩 / 大江健三郎 / 宮崎駿 / 倫理と美学 / 現象学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の集大成として、令和6年度中に学術単行本の出版を計画しているが、その脱稿に向けて既に執筆した分に対する大幅な修正と加筆を施した。口頭発表を極力控えることにし、依頼原稿を含めて研究の手薄な部分にできるだけ関連付けたテーマを設定して個別の論文執筆及び公表を行い、その際に得た新たな認識と成果を単行本の加筆修正の作業にフィードバックする形で進めた。論文執筆は4本で、タイトルはそれぞれ①「「人間」を定義する文学―ポストヒューマン時代における「あいまい」な人間性― 」、②Kunikida Doppo and the Phenomenological Turn at the End of the Nineteenth Century、③「倫理を問いかけるアニメーション――『君たちはどう生きるか』の「世界」」、④「世界」文学試論―貧乏的世界文学の系譜と村上春樹―」である。内容は、単行本原稿の各所に直結しており、特に④は単行本全体の議論の枠組を決める序章(あるいは1章)の後半分に新たに追加するものとなり、最も重要な成果といえる。①と③は依頼原稿だが、両者とも単行本執筆に資するよう主題を調整し、実際に予想以上の知見を得た。①に関しては、既に単行本中にも相当量を割いて大江健三郎を論じる箇所があり、議論の整理と加筆修正に役立った。③に関しては、「世界」がジャンルを超えて適用可能な理論的視点であり、逆に比較を通して物語芸術の各メディア的特性を論じうる概念であることを証す良い例となった。具体的には、アニメにおいては容易に表象可能な「世界」それ自体の変化を文学で描くのに如何なる形態がありうるのか、新たに考察を拡大するきっかけとなった。なお間接的な成果として、令和5年度中に「印象を描く時代―日本近代の文学と美術―」と題した所属大学主催の公開講座を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の「今後の研究の推進方策」では、令和5年度中に出版が適い、それを前提に各種学会やシンポジウムに参加してフィードバックを得ることを計画していたが、実際に出版するには内容の洗練が不十分とみて、途中でエフォートのほとんどを論文の執筆および改稿に充てる計画に切り替えた。結果は功を奏し、4本の論文発表という具体的な成果をみた他、単行本用の原稿の構成や密度も大幅に改善した。大きな修正必要箇所は最終章の第6章を残すのみとなった。本書の最終的な改稿に必要な考察は、令和6年度前半に行われる学会発表を通して深める予定であり、1月にプロポーザルは無事に選考を通過した。実際の出版を経た後に控えている計画事項は、1年間の延長によって実行する予定である。コロナ禍による遅れが尾を引いて計画を二度三度と調整変更する必要があったが、その上での最終的な全体の進捗状況は90%ほど達成したといえ、概ね順調と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度が本助成事業期間の最終年度だったが、一年間の延長願いを提出し、承認された。よって令和6年度は持ち越していた計画事項の完遂を予定する。具体的には年度前半に昨年度から予定されていた海外の学会発表一つ(及び同学会プロシーディングへの投稿)と急遽予定として入ったシンポジウム登壇の成果を踏まえて、単行本原稿の最終章の修正を7月前半までに済まし、全体な最終調整を夏季中頃までに終了、8月中旬までの脱稿を目指す。8月下旬に校正を開始し、9月中旬までの出版を予定する。また、同書の第一章に相当する論文の英語訳を本助成事業の初年度末に作成済みだが、修正と校正を施して学内紀要論文に投稿する予定である(10月)。同論文掲載誌の発刊予定月は年度最終の3月のため直接の活用は適わないが、年度後半は単行本の成果に対するフィードバックを国内外から得て、今後の研究方針の修正と検討に充てる。順調に進めば、当初計画の主要目標は概ね達成したことになる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍における計画変更のため学会参加、ワークショップ、学術書出版関係の打ち合わせを見込んだ出張の回数が減少したため、当初計上した想定旅費に支出が満たなかった。ただし、延長年度である令和6年度において使用見込みである。また同様に単行本出版計画の遅れにより、校正費や翻訳料などの執行機会が後ろ倒しになったため、人件費の支出も請求額を大幅に下回った。これも延長年度において使用予定である。
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Research Products
(4 results)