2021 Fiscal Year Research-status Report
戦時下・戦後大映における谷崎潤一郎作品の映画化に関する研究:女性表象を中心として
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20K12930
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
佐藤 未央子 法政大学, 文学部, 助教 (50827475)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 映画 / 谷崎潤一郎 / 女優 / 検閲 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、1940年代に映画化された谷崎潤一郎の小説「盲目物語」(映画『お市の方』1942)、「痴人の愛」(映画『痴人の愛』1949)に関する資料収集と検討を進め、映画法施行下とGHQ検閲実施下における映画界の製作方針を確認した。また研究対象として、女性同性愛を描いた小説「卍」(映画『卍』1964)も含めることとし、1960年代の同性愛言説(論説・報道・俳優の発言)を調査し、クィア理論に基づく視座を導入して検討を進めている。 中でも、映画臨戦態勢下において、戦時統合によって発足したばかりの大日本映画製作株式会社(大映)で製作された映画『お市の方』に関する研究を最も展開させることができた。国立映画アーカイブでフィルムを確認し、川喜多記念映画文化財団の協力も得て、製作状況や批評、スチール写真が掲載された同時代の映画雑誌の資料を収集するなど、調査を進めることができた。戦時下においてもっとも映画業界の混乱期にあたるといえる1940年代初頭、文芸作品は映画に質的保証をもたらすものと捉えられながら、監督の創作意図や当局の制限によって大幅に形が変えられて映画化された。それでも作家名や小説名を原作として掲げることで映画観客の期待値や評価にギャップが生じていくという、アダプテーションに伴う諸問題が映画『お市の方』には凝縮されていることがわかった。また、女優宮城千賀子の表情が図らずももたらした効果を明らかにした。研究成果は2022年5月に開催される日本近代文学会春季大会で発表する予定である。 ほか補助的な研究として、谷崎潤一郎と生涯を通して交遊した俳優、上山草人の遺贈資料の調査も行い、論文で成果を報告した。また、谷崎潤一郎と戦前期の映画業界の関わりについての研究成果をまとめた著書『谷崎潤一郎と映画の存在論』(水声社)を刊行した。これらの内容も課題と連関させていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は先行研究の体系化に加え、同時代の映画雑誌や検閲時報を確認するなど、可能な範囲での資料収集を進めることができた。また、課題全体の方向性を再検討し、研究課題中の各テーマの内容的な連関を深めることができた。 新型コロナウイルス感染症予防にともなう各図書館・資料館の閲覧制限の状況は大幅に改善されたが、十分な時間を確保できず、貴重資料の現物確認や閲読は想定よりも進捗が遅れている。複写サービスを活用するなど、資料収集の方法を工夫せねばならない。2022年度はさらなる制限緩和が期待されるため、明確な予定を立てながら効率のよい資料収集を心掛けたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度はまず、5月に日本近代文学会での研究発表を経て論文を投稿する予定を立てている。またほかの論考や調査の成果についても、他学会での発表や論文投稿を予定している。 研究計画については、当初は戦時下から戦後の約30年間を研究対象に設定していたが、これまでの研究成果との関連性も鑑みて、1920年代という日本映画の確立期も含めていく。具体的に当該時期の検証を進めるというより、既発表の成果との通史的な一貫性を高めることを目指す。 また上でも述べたように、女優の表象を論じるにあたって、異性愛を主とする映画だけではなく、同性愛を主題とした作品も検討の対象に含め、小説発表時(1930年代)と映画発表時(1960年代)におけるジェンダー・セクシュアリテイの描かれ方と社会的な問題性も検討したい。 2022年度は最終年度にあたるが、これまでの進捗が芳しくないため、延長を検討している。
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Causes of Carryover |
2021年度も遠方での資料調査を控えたため、旅費は計上されなかった。2022年度は制限が緩和されると見込むため、関西での研究調査を予定している。資料整理に要する研究補助者の依頼も難しく、人件費や謝金も発生しなかったが、次年度は環境を整えたうえで依頼する計画を立てている。物品費は想定よりも支出が少なかったが、次年度はフィルム資料の上映費用や、貴重資料の複写代金に充てるなど、支出が増えることを見込んでいる。
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Research Products
(7 results)