2020 Fiscal Year Research-status Report
田山花袋の平面描写論を中心とするジャンル・流派横断的文学理論研究
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20K12932
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Research Institution | Kogakkan University |
Principal Investigator |
小堀 洋平 皇學館大学, 文学部, 准教授 (30706643)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 平面描写 / 田山花袋 / 太田玉茗 / 窪田空穂 / 桂園派 / 香川景樹 / ハルトマン / 大西祝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、田山花袋の平面描写論と桂園派歌論とのジャンル横断的関係の解明に向けた研究を主に実施した。 1)桂園派歌人松浦辰男門下の紅葉会で、花袋と親密な交友関係にあった詩人太田玉茗による評論「桂園和歌論」(1895-1896)の分析を行い、その成果を論文「太田玉茗「桂園和歌論」の位相――大西祝およびハルトマンとの関連から――」(『解釈』67巻1・2号、2021年1月)として発表した。「桂園和歌論」は、玉茗の仏教思想の素養を背景として、近世歌人香川景樹の歌論と、ドイツの哲学者E・ハルトマンの無意識哲学との結合を図る試みであった。それは桂園歌論の革新性を評価する基本的観点を大西祝「香川景樹翁の歌論」(1892)から継承しつつも、その中核をなす「調」の説の解釈においては、大西の弁証法的・合理主義的傾向とは対照的に、強い形而上学的・非合理主義的傾向を有していた。そのような傾向を助長したのがハルトマンの無意識哲学の影響であったと考えられる。 2)景樹の文業を集成した『桂園遺稿』(1907)の、窪田空穂による書込み本の研究については、書き込み内容の整理を実施した。これは、古今集所収歌の解釈をめぐる花袋と空穂の論争を理解するための基礎を提供するものと期待される。 3)なお、この他に、当初予定していなかった成果として、平面描写期における花袋のドストエフスキイ受容を整理した論文「「平面描写」論提唱期における田山花袋のドストエフスキイ受容――語り・プロット・主人公――」(『花袋研究学会々誌』37号、2020年7月)を発表した。これは、ドストエフスキイへの花袋の姿勢から、平面描写論の再解釈への展望を示したものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)太田玉茗「桂園和歌論」については、同時期の桂園派受容における位置づけを、大西祝「香川景樹翁の歌論」との比較をとおして行い、その成果を論文として発表できた。これは、玉茗と親交のあった花袋の平面描写論における桂園派歌論の受容について、今後検討するための基盤を提供するものとなったと考えられる。 2)窪田空穂による書込み本『桂園遺稿』の分析については、書き込み内容の整理を行った。しかし、書き込み内容から空穂の桂園派歌論理解の全体像を解明するまでには至っておらず、花袋との論争における空穂の立場の具体的規定についても、今後の課題として残された。当初は2)の研究内容についても論文化を予定していたが、本年度中の発表に至らなかったため、進捗状況はやや遅れているものと判断する。原因としては、新型コロナウイルスの流行により、田山花袋記念文学館、国立国会図書館、日本近代文学館等で予定していた調査ができなかったことが挙げられる。また、研究の過程で窪田空穂記念館での調査も必要となったが、これも実施することができなかった。 3)ただし、当初の予定になかった、平面描写期における花袋のドストエフスキイ受容を整理した論考を発表できたのは、一定の成果として認められる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度には、平面描写論と新傾向俳句理論とのジャンル横断的関係の解明に向けた研究を主に実施する。 具体的には、『ホトトギス』を中心とする俳論の調査を進め、申請者によるこれまでの平面描写論研究と接続することで、両者の関係を解明したい。この研究では、国立国会図書館と日本近代文学館(東京)を中心に、1910年前後の俳書・俳誌の調査を実施する予定である。新型コロナウイルスの影響による施設利用の制約が予想されるが、研究代表者の所属が地方から首都圏に変更になったため、従来に比べて上記施設での調査の困難は軽減されると考えられる。 なお、本年度中に積み残した窪田空穂による書込み本『桂園遺稿』の分析についても、継続して実施する。書き込み内容の整理をさらに進めてそのグループ化を行い、空穂の桂園派歌論理解の全体像に接近したい。
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Research Products
(2 results)