2021 Fiscal Year Research-status Report
田山花袋の平面描写論を中心とするジャンル・流派横断的文学理論研究
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20K12932
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Research Institution | Wayo Women's University |
Principal Investigator |
小堀 洋平 和洋女子大学, 人文学部, 准教授 (30706643)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 三木露風 / 大西祝 / 象徴主義 / 詩論 |
Outline of Annual Research Achievements |
論文として「三木露風『大西博士の西洋哲学史』の意味するもの ――『白き手の猟人』と『露風詩話』のあいだで――」(『解釈』68巻1・2号、2022年2月)を発表した。 本稿は、三木露風『大西博士の西洋哲学史』(1914)の検討をとおして、詩集『白き手の猟人』(1913)より詩論集『露風詩話』(1915)に至る時期における露風の思索の一端を明らかにしたものである。その際、『大西博士の西洋哲学史』の記述を、その原著である大西祝『西洋哲学史』(1903-1904)の本文と比較し、露風による要約の傾向性を検証する方法を採った。 その検証の結果、以下の点が明らかとなった。第一に、『大西博士の西洋哲学史』執筆におけるプラトンの想起(アナムネーシス)説の確認は、「不意にくる記憶のやうな感動」を詩作の契機として重視する露風の主張(『露風詩話』)の一根拠となったと考えられる。第二に、プラトン倫理学の要約における、「美術的方面」を省略して「解脱的方面」のみを記述する姿勢は、当時の露風作品における「感覚・官能の要素」を篩い落した「観念の裸形」の詩風(三浦仁)と共通するものであった。なお、そのような宗教的傾向は、大西の原著における「文明史」的観点が露風の要約では捨象されていることと表裏をなしている。第三に、「近世哲学」の部では、バークリーの独在論を重視する姿勢を露風は見せており、その傾向はこの期の露風における「自然」を「内部の感動」の展開とする見方(『白き手の猟人』)と通底するものであった。 以上のように、『大西博士の西洋哲学史』の要約姿勢は、詩集『白き手の猟人』より詩論集『露風詩話』に至る時期における露風の詩および詩論の傾向を基礎としつつ、反作用としてその傾向を助長するものでもあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、田山花袋の平面描写論と新傾向俳論との関係を軸に研究を進める計画であったが、昨年度発表の論文「太田玉茗「桂園和歌論」の位相――大西祝およびハルトマンとの関連から――」(『解釈』67巻1・2号、2021年2月)の執筆過程で、花袋と同時代の文学者に対する大西祝の影響の重要性が明らかとなったため、花袋と同時期の象徴主義詩人三木露風における大西の哲学書の受容に関する研究を重点的に実施した。その成果として、論文「三木露風『大西博士の西洋哲学史』の意味するもの ――『白き手の猟人』と『露風詩話』のあいだで――」を査読付き学会誌に掲載することができた。 なお、文学における創作と理論の関係についての研究を学生および一般向けに発信するために、モダニズム詩の若手研究者である大川内夏樹氏を招聘して講演会「宗左近の詩と土地の名前」を2022年2月25日にオンライン形式で実施した。これは、研究代表者の所属する和洋女子大学の教育振興支援助成「文学と芸術を通じた地域社会参画型表現教育プログラム(SEREAL)」(代表小澤京子教授)との共催によるものである。所属校の学生をはじめ、市民からも幅広い参加者があり、近代日本の文学理論に関する研究成果を市民向けに発信する機会となった。 上記のように、研究内容が当初の予定とはやや異なるものとなったものの、今年度は学術成果としての査読付き論文の発表と同時に、市民向け講演会の開催も行っており、全体として研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度となる2022年度には、当初の計画では花袋の平面描写論と夏目漱石の文学理論との流派横断的関係を検討する予定であったが、これに加えて、2021年度の研究内容を発展させるかたちで、花袋作品の露風をはじめとする同時代文学者による受容を対象とした研究を実施する。 具体的には、全国大学国語国文学会の夏季大会において、口頭発表「時代閉塞と形式破壊――田山花袋「罠」の読まれ方――」を実施予定である。そこでは、田山花袋の短編小説「罠」(1909)が、内容・形式ともに同時代の文学が抱えていた大きな問題、すなわち日露戦後から大逆事件に至る時期の社会の閉塞状況をどのような方法で形象化するか、という問題を典型的なかたちで包含する作品であったことを、露風はじめ、島村抱月、小宮豊隆、石川啄木といった、一般に異なる流派に分類される文学者たちによる同時代評をもとに論証する。これは、文学理論のジャンル・流派横断的研究という本研究の方法の有効性を、1910年前後の文学状況を対象として証明する試みともなるであろう。 なお、研究過程で発見した花袋の新出作品(短歌および新体詩)についても、学会誌にて紹介予定である。これらはいわば本研究の副産物であるが、花袋研究の実証的進展に寄与するところがあると思われる。
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Research Products
(1 results)