2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K12938
|
Research Institution | Shujitsu University |
Principal Investigator |
瓦井 裕子 就実大学, 人文科学部, 講師 (20823967)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 源氏物語 / 和歌 / 享受 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は『源氏物語』諸本間の異同に着目し、それぞれの本文と『源氏物語』享受との関連についての研究を行った。具体的には次の2点である。
1.『源氏物語』を享受する和歌が、どのような『源氏物語』本文に依拠しているかという問題を扱った。特に平安末期から鎌倉前期の御子左家の和歌における『源氏物語』摂取について取り上げ、定家やその周辺の『源氏物語』享受においても、定家本系統の『源氏物語』のみでは彼らの『源氏物語』享受実相を把握しがたいことを指摘した。従来の活字本にのみ依拠した研究から脱し、それぞれの本文がどのように享受されたかについて、その一端を明らかにしえた。成果は、「御子左家の『源氏物語』摂取歌における依拠本文」と題し、第307回大阪大学古代中世文学研究会(オンライン開催、2020年11月21日)において報告した。また、論文「御子左家の『源氏物語』摂取歌と依拠本文」として、『和歌文学研究』第122号(2021年6月、印刷中)に発表される。
2.現在の『源氏物語』注釈書は、定家本系統、特に大島本に大きく依存している。その問題点はさまざまな角度から提言されているところである。しかし、その研究状況が、諸本の影印などの刊行や電子公開が進んでもなお改善しない一因は、簡便に読める校訂本文や現代語訳がないことにあると考えられる。そこで、『源氏物語』別本の代表的本文とされる陽明文庫蔵『源氏物語』の校訂本文・現代語訳・注釈の公開に着手した。今年度は、桐壺巻を扱い、「陽明文庫蔵『源氏物語』校注・訳(一)―桐壺巻―」として、『詞林』第69号(2021年4月、印刷中)に発表する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の成果として、論文2本と研究発表1本が発表される。いずれも、活字化された注釈書の本文に依存していた研究状況を改善し、『源氏物語』の多様な本文の研究的可能性を指摘するものである。ここから、従来明らかになっていなかった『源氏物語』享受や、本文相互の関係が解き明かされていくことが期待される。 また、新型コロナウイルス感染症の感染状況が落ち着いた時期に、陽明文庫において『源氏物語』の調査も無事行うことができ、「研究実績の概要」で述べた通り、成果発表することができた。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、『源氏物語』諸本と『源氏物語』享受の関係について、和歌における検討を引き続き進める。また、平安期以降の物語作品を視野に入れながら研究を行う。加えて、陽明文庫蔵『源氏物語』の校注訳の作業も並行して進める予定である。 成果は順次、論文および口頭発表として報告していく予定である。
|
Causes of Carryover |
今年度は新型コロナウイルス感染症のため、すべての学会がオンライン開催になり、文庫調査も思うにまかせなかったため、旅費分が次年度使用額として繰り越されることとなった。次年度も、学会参加・文庫調査は感染状況次第となる。
|
Research Products
(3 results)