2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K12939
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Research Institution | Shikoku University |
Principal Investigator |
田中 智子 四国大学, 文学部, 助教 (00807422)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 古今和歌六帖 / 古今和歌集 / 万葉集 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、主に『古今集』四季部からの影響に注目しながら、『古今六帖』歳時部の構成に検討を加えてきた。そのうち、春夏秋冬の各季のはじめとはてにどのような歌が据えられているかという問題について論文化し、所属大学の紀要に投稿した(田中智子「四季のはじめとはての和歌――古今和歌集と古今和歌六帖を中心に」)。本稿では、『古今六帖』歳時部における春夏秋冬各季のはじめとはての歌の採歌方針が、『古今集』四季部における四季のはじめ・はての歌の配列方針を、より明確化させたものであることなどを論じた。 稿者は以前より、『古今六帖』の和歌部類・採歌の方針が『古今集』の配列構造をふまえたものであることを、主に『古今六帖』雑思部と『古今集』恋部との比較を中心に論じてきた。さらに本年度の研究で、『古今六帖』歳時部の各項目の立項に際しても、『古今集』四季部の和歌の配列法がふまえられている点を明らかにしえたのは、大きな収穫であったと考える。四季歌と恋歌は平安朝和歌の大きな主題であるが、その両方において、『古今六帖』は『古今集』のあり方を踏襲、発展させたものとみられるのである。 また、2020年度には、上記の研究と並行して、『古今六帖』の構成に『伊勢物語』がいかに影響を与えたかについても考察してきた。『伊勢物語』の成立には複雑な事情があるとされ、複数の段階を経ているとの指摘もある。『古今六帖』との成立の先後関係も難しいものがあるが、少なくとも『古今六帖』の項目の配列や部の構成をみるに、『伊勢物語』の影響は小さくないと考えられる。当該の研究成果については、2021年度に論文化する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による遠隔授業の実施などにより、本務校での教育業務に費やす時間が例年よりも増加したり、資料収集や調査のための出張に行けなくなったりといったトラブルがあった。それゆえ、資料収集などに際してある程度の軌道修正が必要にはなったものの、全体としてはおおむね順調に研究を進めることができたと考えている。 当初の計画では、2020年度には、『古今六帖』の構成が、『古今集』をはじめとする前代の作品をいかにふまえて構築されたものであるかを検討する予定であった。本年度には、その計画通り、『古今六帖』歳時部が『古今集』四季部の配列構造にいかなる影響を受け、またそれを『古今六帖』なりに深化させたかに検討を加え、その成果を論文化し、所属大学の紀要に投稿した。また、上記の研究と並行して、『古今六帖』の構成に『伊勢物語』の所載歌や物語が与えた影響についても考察を深めることができた。 そもそも、『古今六帖』という歌集には序文がなく、その編纂の目的や背景については必ずしも明確にされていない。本研究のねらいは同集の構成という内部徴証に基づき、同集の編纂目的・背景に迫ることにある。『古今六帖』が、外形的には中国唐代類書の枠組みを用いつつも、その内実としては、『古今集』の構成を踏襲・深化させた側面が大きいという事実は、『古今六帖』編纂の目的・背景を明らかにするために重要な意義を有すると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度には、前年度より行っている『伊勢物語』と『古今六帖』との関係性の研究をさらに進め、その成果を論文として発表する予定である。『古今六帖』が『伊勢物語』の和歌をどのようにふまえ、どのように立項の方法に取り入れているかという問題を明らかにすることで、『古今六帖』編纂の意図や経緯に迫ることができればと考える。ただし『伊勢物語』と『古今六帖』は、いずれも成立の過程や背景について諸説があることをふまえ、両者の先後関係が一様には定めがたいものであることをも念頭におき、考察を加えることとしたい。 また、それと並行して、『古今六帖』が後代の歌集や作品にいかなる影響を与えたかにも分析を加える予定である。とりわけ『和漢朗詠集』の部類法に、『古今六帖』の部類・立項の方法がどのように引き継がれ、変容させられているかに検討を加えることとしたい。『和漢朗詠集』は漢詩句と和歌を部門ごとに分類し、配列する撰集であり、その構成には『古今六帖』からの影響が小さくないと考えられる。この研究は、『古今六帖』が後代において享受されてきた様相の一端を明らかにすることにつながろう。また本研究は、翻って、『古今六帖』という歌集がいかなる意図で編纂されたかという問題の解明にもつながるものと考える。 なお、2021年度にも新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響により、資料収集等に困難が生じる可能性があるため、できる限り早期から資料収集を行ったり書籍を手に入れたりして、計画通りに研究を進められるよう努めたい。
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Causes of Carryover |
研究に必要な物品等を購入したところ、少額の余りが生じてしまった。本年度の研究に必要な物品は既にすべて購入できていたため、その余剰金は次年度にまわすこととし、次年度に必要な物品を購入する資金とすることとした。
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