2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K12939
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Research Institution | Shikoku University |
Principal Investigator |
田中 智子 四国大学, 文学部, 講師 (00807422)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 古今和歌六帖 / 伊勢物語 / 古今和歌集 / 文学史 / 和歌史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、主に『伊勢物語』と『古今和歌六帖』との影響関係についての考察に取り組んだ。『古今和歌六帖』の成立過程、成立年代については不明な点が少なくないが、通説では10世紀後半の成立とみられており、一般に、『伊勢物語』との重出歌については、『古今和歌六帖』が『伊勢物語』から歌を採録したものと考えられてきた。こうした研究史をふまえつつ、稿者は『伊勢物語』と『古今和歌六帖』の重出歌すべてに分析を加え、『古今和歌六帖』の歌に『伊勢物語』から採録されたとおぼしいものが存する一方で、『伊勢物語』の複数の章段において、『古今和歌六帖』から採歌して歌物語が創造された可能性があることを明らかにした。すなわち、『古今和歌六帖』はある段階の『伊勢物語』を撰集資料として成立したが、のちに『伊勢物語』の章段が増補された際、『古今和歌六帖』の歌が物語に取り込まれて歌物語が生み出されたということである。上記の研究成果は論文として2022年度に公表される予定である(田中智子「古今和歌六帖と伊勢物語」『国語と国文学』99-7、2022年7月、掲載決定済)。 また、本年度には、2020年度に執筆した論文が公表された(田中智子「四季のはじめとはての和歌―古今和歌集と古今和歌六帖を中心に―」『四国大学紀要人文・社会科学編』56、2021年6月)。本稿は、『古今和歌六帖』のなかでも特に第一帖歳時部に分析を加えたものである。歳時部では春夏秋冬のはじめとはての項目がもれなく立項されるという網羅的な構成がとられており、その配列が、『古今和歌集』四季部の配列構造に倣いつつも、独自の特徴を有していることを、個々の和歌表現の分析に基づき、明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究のねらいは、『古今和歌六帖』と先行の作品、後世の作品との比較分析を行うことで、同集の文学史上における位置づけを明らかにするとともに、同集を中心に据えた新たな文学史を構築することにある。2020年度、2021年度には、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、資料収集のための調査旅行が当初の計画通りにはできなかったものの、必要な資料を可能な限り取り寄せたり購入したりして、おおむね予定通りに研究を進めることができたと考える。 2020年度には『古今和歌六帖』歳時部と『古今和歌集』四季部の関係を中心に分析を行った。その結果、『古今和歌六帖』歳時部が『古今和歌集』四季部の配列構造の影響を受けつつも、独自の構成を有していることを明らかにし、研究成果を論文として公表することができた。和歌の主流を成す四季歌の史的展開を『古今和歌六帖』を中心としてたどることで、平安朝和歌史についての稿者なりの見取り図を得られたと考える。 2021年度には、『伊勢物語』と『古今和歌六帖』との関係性に検討を加え、『古今和歌六帖』と『伊勢物語』が相互に影響を与え合いながら成立、成長した動態を明らかにした。その成果を論文として査読誌に投稿し、掲載されることが決定した。本研究は『伊勢物語』の成立をめぐる研究にも資するものと考える。 ただし、2021年度後半には、『古今和歌六帖』が後世の『和漢朗詠集』の部類法や『枕草子』の類聚章段にいかなる影響を与えたかを分析する予定であったが、10月から産前産後休暇、育児休暇に入ったために、研究を一時中断せざるをえなくなった。2022年度後半に育児休暇から復帰する予定であり、復帰後、上記研究に引き続き取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで稿者は、とりわけ『古今和歌六帖』が前代の作品から受けた影響を中心に研究を進めてきた。その成果をふまえたうえで、2022年度、2023年度には、『古今和歌六帖』が後世の作品に与えた影響を中心に研究を進め、同集を中心に据えた文学史の構築を目指す。 2022年度には、2021年度に取り組むことができなかった、『古今和歌六帖』と『和漢朗詠集』・『枕草子』との影響関係について研究を進めることとする。『和漢朗詠集』の部類法には中国類書の影響が大きいことが指摘されているが、個別の部門をみてゆくと、『古今和歌六帖』からの影響も小さくないと考えられる。また、『和漢朗詠集』と『古今和歌六帖』に重出する歌の本文に分析を加え、『和漢朗詠集』が『古今和歌六帖』をどのようなかたちで撰集資料としたのかを明らかにしたい。上記の研究と並行して、『古今和歌六帖』が『枕草子』にいかなる影響を与えたかについても検討する予定である。『古今和歌六帖』と『枕草子』との関係については既に様々な研究が積み重ねられてきたが、改めて『古今和歌六帖』が『枕草子』、特に類聚章段にどのようなかたちで摂取されたかを明らかにしたい。 2023年度には、2020年度からの研究成果をふまえ、『古今和歌六帖』を中心とした文学史の構築を目指す。和歌を部や項目に細分する歌集の嚆矢である『古今和歌六帖』が、どのような文学史的背景のもとに成立したのか、また『古今和歌六帖』の成立によって後代の作品にどのような影響が生じたのかに検討を加え、『古今和歌六帖』を軸に据えた文学史の見取り図を描きたい。
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Causes of Carryover |
2021年度の後半から産前産後休暇、育児休暇に入ったため、本年度に予定していた研究を中断することとなり、資金を使い切ることができなかった。そのため、2022年度の育児休業明けから研究を再開し、余剰金を活用して必要な物品を購入する資金とする。
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Research Products
(2 results)