2023 Fiscal Year Research-status Report
十五年戦争期の公器「日本詩壇」に見られる地方詩人の文学的営為に関する調査及び研究
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20K12943
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐藤 元紀 千葉大学, 教育学部, 准教授 (40756516)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 日本詩壇 / 高知新聞 / 岡本彌太 / 地方詩人 / 十五年戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は、令和4年度までに収集した岡本彌太の「高知新聞」に連載掲載された「随筆 楚歌春秋」の翻刻作業と注釈の作成、分析を進めた。同資料は詩人の猪野睦氏旧蔵の複写物を岡本彌太遺族、猪野氏遺族の同意の上で翻刻を行ったものである。 同資料の存在についてはかねてより言及があったものの、高知新聞社、オーテピア高知図書館、高知県立文学館、国立国会図書館等にて調査を実施したが、いずれにも収蔵されておらず、現在では確認が困難な資料であることが判明した。そのため、翻刻を行い、広く公開することが妥当であると判断した。 内容としては、同時代の文学、文化、流行、社会等の状況を捉えて批評した随筆であり、これまで扱われる機会が少なかった岡本彌太の第一詩集『瀧』(昭和7年10月、詩原始社)以降に本格化してゆく彌太の創作を捉える上での基礎資料になると考えられる。 また、芥川龍之介の詩篇に関する批評、同郷の寺田寅彦の随筆に関する批評、同時代の詩人の小畠貞一との関わりから見える詩人間ネットワークの構築など、文学に限っても昭和10年代の15年戦争下の状況を垣間見ることができる点で興味深い資料である。 この研究成果により、高知という一地方に身を置いていたからこそ、却って近代という時代をより客観的に、より批判的に捉えることができた岡本彌太の眼差しを同資料には看取することができ、全国誌であった「日本詩壇」における15年戦争期の岡本彌太の詩篇との関わりについても見通しを持つことができた。 成果は、「地方から見た近代の一側面-岡本彌太「随筆 楚歌春秋」翻刻(抄出)」(「千葉大学教育学部研究紀要 第72巻」令和6年3月)として論文化した。「随筆 楚歌春秋」に見られる岡本彌太の自作に関する言及を分析するなかで、「日本詩壇」に掲載された彌太の詩篇を再検討する必要性が生じた。令和6年度はその点について研究を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は「研究実施計画」に記載した「抒情詩人として時代に対峙した岡本彌太の十五年戦争期の「日本詩壇」を中心とした詩業について考察し、その同時代性や批評性について問う」という目標に対して、再発見資料の翻刻と注釈、分析をもとに一定の成果を得ることができた。コロナ禍に伴う研究当初の予定からの遅延はおおむね解消され、順調に研究を進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度はこれまで調査を行ってきた資料の不足を補いつつ、「日本詩壇」掲載の岡本彌太の詩篇と、令和5年度に研究を行った「高知新聞」掲載の「随筆 楚歌春秋」との関わりについて分析を行い、研究の最終年度として論文等でその成果を公開することを目指す。
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Causes of Carryover |
研究開始時の社会状況が不安定であり、資料調査に十分に赴くことができなかったことによる遅延のため、一年の期間延長を申請する運びとなった。 令和5年度に生じた残予算に関しては、令和5年度の物品費・旅費等として使用する。
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