2020 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Representation of California in Modern and Contemporary U.S. Literature and Film
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20K12956
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 博之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 講師 (50780392)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 米文学 / 映画 / 西部 / カリフォルニア / 空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はおもに20世紀以降のアメリカ合衆国の小説および映画におけるカリフォルニアの表象を考察するものである。近年盛んになっている文学と空間との関係をめぐる理論的な研究の蓄積を意識しつつ、北米におけるカリフォルニアの地理的・歴史的な位置づけとの関係において、この土地と特権的に結びついてきた複数の物語ジャンルの発展と変化を個別の作品の精読をとおして明らかにすること、その過程でカリフォルニアに投影されてきたイメージの多様性を考察することを目的としている。 研究の1年目にあたる2020年度はケアリー・マクウィリアムズ、ケヴィン・スター、マイク・デイヴィスらによる代表的なカリフォルニアの文化史の研究を概観しつつ、特定の時代や作家に特化した先行研究を収集・調査する作業が中心となった。とりわけカリフォルニアとの結びつきの深いハードボイルド探偵小説やフィルム・ノワールの歴史的な発展を、数多く存在する代表的な作家・作品を渉猟しつつ整理する作業にほとんどの時間を使うことになった。並行して、古典的なハードボイルド探偵小説やトマス・ピンチョンのカリフォルニア小説についての論考の執筆に向けた作業を進めた。また、以前から研究対象としているウェスタンとハードボイルド探偵小説、カリフォルニアとの関係を題材として、勤務校で開催されたシンポジウムにおいて「アメリカン・アンチヒーローの西部ーー21世紀のウェスタンとハードボイルド探偵小説におけるヒーロー像の変容」と題した発表をおこなった。本年度中の研究は2年度目以降、段階的に論文として発表できるように作業を進めるつもりである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記のような作業をある程度進めたとはいえ、本年度中は必ずしも計画どおりに研究を進めることができなかった。現在の状況のために合衆国での資料収集やフィールドワークが困難になったことだけでなく、大学の授業の遠隔化にともなう校務の大幅な増加により、個人の研究に割ける時間がほとんどなくなってしまったのが正直なところである。 カリフォルニア、とりわけロサンジェルスやハリウッドの文化史を概観しながら、古典的なハードボイルド探偵小説、フィルム・ノワールの代表的な作品を整理していく作業はある程度進められたが、具体的な論考の執筆はまだ思うように進められていない。レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルドのハードボイルド探偵小説、それらと一定の関係を持つトマス・ピンチョンのカリフォルニア小説についての論文の執筆も2年度目以降の課題となるので、具体的な分析対象のテクストをしぼり、詳細な分析を進めていきたい。 また、この年度中に考え始めるつもりであったポール・トマス・アンダーソンのカリフォルニア映画についての分析にも手をつけることができなかった。シンポジウムで発表した現代のウェスタンにおけるアンチヒーロー像とカリフォルニアとの関係についての考察を論文に発展させる作業も2年度目以降に持ちこすことになる。 このように当初予定していた作業をすべて順調に進めることはできなかったが、本年度中の成果を具体的な論文として発表していけるように今後の研究を進めていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もしばらくは合衆国での資料収集などは困難な状況が続くと考えられるため、国内で進められる内容にしぼって研究を進めていきたい。 1年目の作業をふまえ、まずはシンポジウムで発表した現代のウェスタンにおけるアンチヒーロー像とカリフォルニアとの関係についての論考を論文として発表するのが2021年度の1つ目の目標である。具体的な分析対象となるのはパトリック・デウィットの小説『シスターズ・ブラザーズ』とその映画版で、ゴールド・ラッシュ期のカリフォルニアを舞台に一種のアメリカン・ドリームの追求から脱落するアウトローたちを描くこの作品は、カリフォルニアに投影されるイメージの重層性を考えるための1つのきっかけとなるはずである。それと並行して古典的なハードボイルド探偵小説やフィルム・ノワールとロサンジェルス、ハリウッドとの関係に関する分析を継続し、この領域についても発表できる論文を少なくとも1本かたちにすることを目標とする。こうした作業とも関連するポール・トマス・アンダーソンやトマス・ピンチョンなどの現代作家の作品についての研究に関しては、引き続き先行研究の整理とテクストの分析を継続し、今後論考として発表できるようにノートをまとめていくつもりである。
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Causes of Carryover |
物品費の使用額として若干のあまりが生じたため、2年度目の物品費の一部として研究書の購入などにあてる。
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Research Products
(1 results)