2021 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Representation of California in Modern and Contemporary U.S. Literature and Film
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20K12956
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 博之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 講師 (50780392)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 米文学 / 映画 / 西部 / カリフォルニア / 空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究1年目の2020年度はカリフォルニアの文化史関連の文献や特定の作品についての先行研究などの収集・整理が中心となった。2年目にあたる2021年度はその作業をふまえ、2つの作品論を紀要論文として発表し、今後の研究に接続できるような内容の口頭発表をシンポジウムで発表することができた。 ポール・トマス・アンダーソン監督の映画『パンチドランク・ラヴ』(Punch-Drunk Love)についての論考では、この映画に登場するロサンジェルスの複数の場所の表象を詳細に分析し、フィルム・ノワール的な閉塞的空間と肯定的な変化の可能性を体現する空間というロサンジェルスと頻繁に結びつけられてきた両極的イメージが、この映画においては人物の内面と外側にある世界の境界線の溶融という表現主義的な手法によってあらわされている様子を論じた。本研究のサイドプロジェクトとして生まれたもう1本の紀要論文はネヴァダ州を舞台にした小説を論じたもので直接的にはカリフォルニアとは関係を持たないのだが、現代の合衆国西部における閉塞感を描き出すウィリー・ヴローティンの小説はカリフォルニア、とりわけロサンジェルスの小説・映画と多くの共通点を持つものでもあり、本研究の文脈で執筆することができたものである。また、シンポジウムにおける口頭発表「西へ東へーーヴィエト・タン・ウェン「アメリカ人」と現代合衆国文学の位置」では、カリフォルニアと深く結びつくアジア系アメリカ作家と環太平洋世界のつながりを考える作業に着手することができた。これらの成果はいずれも今後の研究の方向性を再検討する契機となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2本の論文をかたちにできたことは前進であったし、これらの執筆作業はカリフォルニア・西部と深く結びつく両極的なイメージを確認する作業ともなった。しかし同時に、当初の計画として考えていたフィルム・ノワールや自然主義文学とカリフォルニア・西部との結びつきを本格的に考える作業の必要性を再認識する過程でもあった。ハードボイルド探偵小説やフィルム・ノワールの具体的な作品についての論考を執筆する作業には着手できなかったし、それらに先行する自然主義文学とカリフォルニアとの結びつきを考察する作業はまだこれからである。アンダーソン監督のほかの作品(とりわけ『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』[There Will Be Blood])についての考察も依然として準備段階であり、文章化することがまだできていない。これらの課題は次年度の研究の方針に反映させることになる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在も続くコロナウィルス感染症の状況なども考慮すると一定期間の合衆国での資料収集などは引き続き難しいと考えられるため、最終年度となる2022年度も国内で可能な作業に限定して、具体的な作品についての論考の執筆作業を中心に研究を進める予定である。現在までの進捗状況をふまえ、現代の文学・映画作品についての論考の準備と、さらに過去にさかのぼって古典的なハードボイルド探偵小説、フィルム・ノワール、自然主義文学とカリフォルニアとの結びつきを考察する作業を進めていきたい。いずれの領域についても先行研究の整理とテクストの分析を継続し、1本ずつ英語論文として発表することを2022年度の目標とする。
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Causes of Carryover |
物品費の使用額として若干のあまりが生じたため、2年度目の物品費の一部として研究書の購入などにあてる。
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Research Products
(3 results)