2020 Fiscal Year Research-status Report
中英語ロマンス文学における宗教の表象研究:Saracenの表象を中心に
Project/Area Number |
20K12960
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
趙 泰昊 信州大学, 学術研究院人文科学系, 助教 (80868498)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人種 / サラセン / 中英語ロマンス / 宗教 |
Outline of Annual Research Achievements |
・本研究は中世イングランドにおいて作成された物語(中英語ロマンス)に登場する「サラセン」の表象を対象としながら、当時の書き手や聴衆とは様々な理由から「異なる」グループに属すると考えられていた人々が、どのように表現され、理解されていたのかを明らかにすることを目指すものである。初年度である令和2年度は特に、古代から現代に至る「人種」や「人種主義」の発展について扱う文献をもとに、西洋世界における人種観の発展の歴史を捉えることに注力した。通常、近代以前には存在しなかったと考えられる「人種」という概念が、本研究の主な対象となる中世後期にはすでに存在していたという仮定に基づき、人種表象がどのように描かれているのかを、13世紀から14世紀に広く読まれたいくつかの物語を実際に分析することで考察した。 ・また、こうした分析の結果、中世の人間集団を分かつ最大の指標である「宗教」が、現在の我々が「人種」に属すると考える身体的特徴や遺伝的性質などと結び付けられていたことを明らかにし、異なる集団間の交流において、改宗を決意した個人は新たに獲得した自らのアイデンティティを証明するため不断の努力を求められていたという事実を指摘した。 ・これまでの研究成果はフランスで刊行されている学術誌、_Etudes Medievales Anglaises_の「人種」をテーマとする 95号において、‘The Performativity of Racial-Religious Identity: The Representation of Saracens in Middle English Romances’として発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
・初年度となる本年度は、主な対象となる中英語で書かれたテクストの精査と、それらを扱った中世研究を渉猟し、分析の基盤を固めることを予定していた。実際に研究に取り掛かると、この研究を進めるためには、中世だけを対象とする研究資料だけでは不十分であり、古代から現代に至る異なる時代に属する事象を対象にした議論を確認することが不可欠であることが明らかとなった。そのため、本来予定していた全ての作品に対する網羅的な分析を実施するに先立ち、人種をめぐる通時的な研究を参考資料としながら、いくつかの作品にのみ限定して分析を行なった。こうした手順の変更と関連して、英語で書かれた作品だけではなく、その元となったと考えられているフランス語やラテン語のテクストについても、当初予定されていた進度での調査が十分にできているとは言い難い状況である。 ・一方で、当初予定していた中世後期における作品群のみではなく、異なる地域や時代、あるいは絵画などの異なるメディアにおける表象伝統との類似や相違から、本研究をさらに発展させるための知見を得ることが可能となった。 ・本年度はCOVID-19の感染拡大による国内・国外の移動制限によって、本来予定されていた国際学会への参加などを取り止めることとなった。渡英した際に調査を予定していたものについては次年度に延期することとなったが、それに代わり、本年度は購入した書籍をもとに国内での研究活動に専念した。
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Strategy for Future Research Activity |
・本プロジェクトの最終年度である次年度は「中英語ロマンスに登場するサラセン人表象を網羅的に分析しその役割を明らかにすると同時に、全体像を描き出す」というプロジェクト全体の目的を達成するため、可能な限り多くのテクストに対する分析を進める予定である。 ・本年度の研究成果を基に中世英語で書かれたロマンス作品に登場する「サラセン人像」を網羅的に分析することで、本年度発表した論文中で導き出した「中世イングランドの人種観」に対する暫定的な結論を再検討し、その妥当性を高めることを目指す。同時に、主に13世紀から15世紀ごろのイングランドと近隣国の政治状況などを分析した先行研究を参考に、歴史的要請によってどのような「他者表象」が望まれており、それがサラセン人という姿で表現されていたのかを調査する。 ・これらの成果を国内での学会における研究発表や、研究論文にまとめ、国際学会などが刊行する学術誌にて発表する。
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Causes of Carryover |
・当初計画では、令和2年度に国際学会参加や研究のための海外出張を実施予定であったが、COVID-19の影響により中止となった。 ・次年度使用額は令和3年度請求額と合わせて、消耗品費として使用する予定である。感染状況が改善されれば、令和2年度に中止となった海外出張のための外国旅費として補填する。
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