2022 Fiscal Year Annual Research Report
中英語ロマンス文学における宗教の表象研究:Saracenの表象を中心に
Project/Area Number |
20K12960
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
趙 泰昊 信州大学, 学術研究院人文科学系, 助教 (80868498)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | サラセン / 人種 / 中英語ロマンス / 中世イングランド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は中世イングランドにおいて作成された物語(中英語ロマンス)に登場する「サラセン」の表象を対象としながら、物語の作者や同時代の聴衆とは様々な理由から「異なる」グループに属すると考えられていた人々が、どのように表現され、理解されていたのかを明らかにすることを目指すものである。本研究の当初の計画には複数の国際学会における発表が盛り込まれていたが、COVID-19の感染拡大の影響を受けて計画を変更しており、2022年度にオンラインで実施された国際学会への参加のため、研究期間を2年から3年に延長した。 プロジェクトの最終年度となる本年度は、中世における人種と宗教の結びつきを分析したこれまでの研究成果を踏まえ、こうした区分を表す指標が身体的な特徴などの生得的な要素だけではなく、衣服や武具のように着脱可能な物品によって象徴的に表されているケースを取り上げた。この研究成果の一部は第57回International Congress on Medieval Studies(2022)において報告を行った。最終年度の分析はこれまでの研究成果をさらに発展させたものであり、「人種」を巡る区分がいかに恣意的で人為的なものであるという点について考察を深めている。本研究によって提示されたこうした問題意識は、中世イングランドにおける人々の想像力を理解する一助となるだけではなく、現代における「人種」という概念がいかに恣意的に形作られたものであるかを示してくれる。一方で、本研究における成果はあくまでも中世イングランドで作成されたいくつかの文学作品を対象に得られたものであり、今後の研究においては更に多くの作品や多言語による物語を視野に収めつつ、多角的な視点から同様の問題に対して分析を行うことが望まれる。
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