2021 Fiscal Year Research-status Report
Representations of Musical Gatherings in the Works of the Irish Revival
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20K12967
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
平繁 佳織 中央大学, 経済学部, 助教 (50825081)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アイルランド / アイルランド文学 / 大衆文化 / 家庭音楽 / ケイリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は19世紀末から20世紀初頭にかけてのアイルランドの大衆音楽文化とその文学的表象を研究対象としているが、今年度は特に家庭音楽(domestic music)に焦点を当て、アイルランドおよびイギリスにおける私的空間でいかに音楽が享受されていたか分析した。使用した資料は文学作品や新聞記事、作家や著名人の日記などで、主に書籍として出版されているものとデジタル化されているものを調査対象とした。とりわけピアノの所有がヴィクトリア朝のrespectabilityの概念と深く結びついていたことを、英国の貴族・上流階級の会員制クラブの歴史との関連で考察し、例えばジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』第十一挿話に描かれているような音楽会が、アイルランドというよりはイギリスの伝統に連なることを確認した。そのうえで、それとは別に考えられるアイルランド特有の音楽的文脈としてケイリー(ceili)に着目した。ケイリーは世紀転換期のアイルランドでは、ダグラス・ハイド率いるゲーリック・リーグの強力なプロモーションによってアイルランドのダンスを楽しむ場として知られるようになっていたが、その起源は隣人の家を訪問し、ダンスのみならず様々なパフォーマンスに興じることを指した。domestic ceili特徴として、その場にいる者すべてが何かを披露することを求められ、事前に決められたプログラムはなく、インフォーマルであることが挙げられる。同時に、矛盾するようではあるが、インフォーマルさは参加者間に共有される一種の「暗黙の了解」に依ることで可能になるものである。アイルランドの家庭音楽シーンにおいては、先に述べたイギリスの家庭音楽の伝統のほかに、ケイリーが一つの型を提供していたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年も引き続き海外での資料調査が困難な状況が続き、軌道修正を余儀なくされた。具体的には、昨年度同様、アイルランドの特定の都市における具体的な活動内容に焦点を置くのではなく、文学や新聞記事等テキストに残りやすい音楽をめぐる言説に着目した。結果として、アイルランドとイギリスという大きな括りでしか研究を進めることができず、当初の目的であった都市ごとの分析には入れずにいるのが現状である。しかし、domestic ceiliという概念にたどり着き、それについて未だまとまった研究がされていないことも判明したことの収穫は大きい。すなわち、アイルランドとイギリスの伝統はもともと重なる部分が大きいが、実は表面上は似通っていても異なる文脈を有している可能性が見えてきたのだ。同時に、アイルランドからイギリスへの影響も見逃すことはできない。当初の計画にあった都市別の考察はどの程度できるか不明だが、この視点を軸に、アイルランド・イギリスという大まかな二項対立に囚われないより精緻な考察を行なっていく方向で計画を続行することは可能だと判断し、進捗はやや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
長引くパンデミックや変化する世界情勢を鑑みて、海外渡航を前提とした当初の研究計画の変更が必要なことは明らかである。もともとアイルランドの主要4都市(北アイルランドを含む)の個別の資料調査をもとに、各都市特有の大衆音楽活動を整理した上で、復興運動におけるアイルランドとイギリスの文化混交を精緻に分析することを目的としていたが、日本からアクセスできる資料が限定的であることから、今後は大衆音楽の中でも劇場音楽と家庭音楽の二つに焦点を絞り、音楽活動そのものというよりも音楽表象の分析から、具体的な核都市での音楽活動に迫る演繹的な手法に移ることとしたい。その場合、主要な資料としては文学、新聞記事などデジタル化が進んでいる種類のものとなる。まずは音楽をめぐる思想の潮流を整理することを本計画の最大の目的とし、海外渡航を見据えた研究期間の延長も視野に入れて、その時に備えるつもりである。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画において大部分を充当する予定であった海外渡航に関する費用が発生しなかったため、次年度使用額が生じた。研究費の使途としては、必要な書籍およびデジタル機器の購入、海外の図書館やアーカイヴへの複写依頼費に充てる一方、海外渡航が可能になり次第、現地調査を遂行することとしたい。
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Research Products
(1 results)